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モスラスクイーンの胸中

魔虫に意思はない。

ただ、本能があるだけだ。

キングやクイーンレベルを除いては、だが。


モスラスクイーンは、ホヤンスクを目指して飛翔していた。

周りには護衛役のように親衛モスラスも飛んでいる。


…自分たちは迷宮(ダンジョン)中でひっそりと暮らしていた小さな群れだった。


時折迷い込んでくる魔獣や冒険者を糧に生きていた。

迷宮そのものから魔素を得て、外敵もほとんどいない空間でそれなりに自足していた。


しかし、あの日、アレクサンドルと名乗る存在が、ダンジョンの主人として君臨するようになった。


現在の自分たちの(あるじ)でもある。


自分たちの群れは、アレクサンドルの転移の魔法で外界に出された。


夕暮れとはいえ、光がまぶしかった。

初めて、

空の高さを知った。

緑の濃さを思った。

いろいろな獲物を食したのもこのころからだ。


親衛モスラスがせっせと運んでくる糧を食するうちに自分の体も群れも大きくなっていった。


餌は周囲に見当たらなりつつあった。


そして、昨日主であるアレクサンドルから命がくだった。

急だった。


ホヤンスクを占領して巣とせよ、と。

街道を破壊せよ、と。


意味することがよく分からなかったが、主からの思念で、

どこへ行けばよいのか

何をすればいいのか

ということは理解した。


そして今、自分は飛んでいる、ホヤンスクへ向けて。


先に発した群れは、敵にだいぶやられたようだ。

命の気配がこちらに伝わらない。


敵が憎い。

可愛い我が子たちを殺した敵が。


今度はこちらの番だ。

敵どもを殺め、餌としよう。


夕闇の中をモスラスクイーンが飛んでいた。


***

モスラスクイーンを最初に見つけたのは、鳥の目を持つ獣人魔法師だった。


部隊の隊長のエリナにすぐに伝えた。

満月のもと、遠方に目を凝らしてみると、確かに大きな何かがこちらに近づいていた。


エリナは動揺した。

この距離であれほど大きく見えるということは、かなり巨大だ。


強大、凶悪な魔獣が出現する東部とは違って、北部で生まれ育ったエリナにとって、今まで見たことのない魔虫や魔獣の大きさであった。


あれを倒せるのか?


エリナは努めて落ち着こうといったん目をつぶった。


モスラスクイーンが出現した時に備えた布陣と手順を心の中で復唱した。


そして、眼を見開いて、隊員たちへの指示を始める。


「隊員諸君に告ぐ。モスラスのクイーンが前方から接近してくる。

普通のモスラスは二の次にしクイーンの対応を最優先する。

事前に指示したように防御、解毒担当はすぐに防御障壁を発動できるように準備を。


攻撃担当は光球を増やしいっそう視界を明るくし、そのあと私の元に集まってほしい。


弓手はこれまで通り普通のモスラスの接近を防ぐ。


なんらかの危機が生じたらすぐに防御障壁の中に避難を」


エリナの指示に部隊は一層の緊張感を高めた。


魔法師たちが遠くにもライト代わりの光球を放った。


モスラスクイーンは徐々に巨大さを示すのであった。

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