それぞれの思い
地面に水平に飛んでいたモスラスは、前進をやめて、翅を地面に垂直に立てようとしていた。
これは獲物や攻撃対象が近づくと毒を含んだ鱗粉を送り込む仕草であり、毒によって相手の動きを止めて、食いつくのである。
しかし、翅を垂直に立てる寸前に、小恐竜のごとき竜体が、モスラスに襲いかかる。
鋭い爪で切り裂き、1匹また1匹と撃ち落としたのであった。
再びドゼルの元に待機するザウルス。
「ドゼルの分身、久しぶりに見たよ~」
フォクラが言うと、
「そうじゃなぁ。最近、使う機会がなかった」
そういって、ドゼルは新たに近づいてきたモスラスを竜体で仕留めようと身構えたが、アスカで弓矢でちょうど射止めたところであった。
城壁の上にはアスカたちのパーティー以外も防衛を担っている。
城内への侵入はほとんど許さず善戦していたが中には力至らなかったパーティーもあった。
毒に倒れている冒険者たちの姿が、遠めにフォクラの目に入った。
複数のモスラスが冒険者の内臓を食いちぎっている。
惨たらしい眺めだ。
しかし、もはや助けにはいくことはできない。
自分たちの持ち場を離れることはできない。
魔虫や魔獣の討伐ではつきもの事態である。
フォクラもかつて何度も目撃した。
戦闘前に笑顔で言葉を交わしていた冒険者が、戦闘中に魔獣の餌食になり、無惨な姿で路傍に転がっていた。
自分もそうなりかねなかった。
焦って救援に向かってはいけない。
まずは自分自身を、次に自分のパーティーを守らなければならない。
それがあってはじめて、他のパーティーやその他大多数を守れるのである。
これはフォクラが冒険者の暮らし眺め
中で悲しくも掴み取ったものであり、アスカ、ドゼルとも共有されている価値観だ。
フォクラはせめて苦しみを除こうと毒虫がたかる冒険者の方へ青白い光球を放った。
魔虫はしびれたように動かなくなり、冒険者の動きも止まった。
アスカは無言だった。
ドゼルは、合掌し一瞬黙黙祷をささげたのであった。
***
エルゼは東門からやや離れた場所にある救護班の天幕にいた。
モスラスの毒の鱗粉にやられた者が運び込まれ出した。
ゴーリキーとエリナの部隊が城外でだいぶモスラスを撃ち落としたが、それでも少数は城壁にたどり着き、武人たちとの戦闘になった。
まだ重傷者は見かけないが、今後重傷を負うものも出て来るだろう。
エルゼは白衣を着て解毒薬の調合に勤しんでいたが、運び込まれた者がでると、解毒魔法をかけていく。
本来、それほどの威力はないエルゼの解毒魔法ではあるが、今回は魔緑石を使うため、効果はかなりよい。
ホヤンスクに来て、解毒の魔法は上達している。
自分も役に立てているかもしれないとエルゼは思えるようになっていた。
エルゼは目下城外で指揮をとる姉の無事を祈るとともにタケルのことを思い出した。
黒髪黒眼の青年は今一体どうしているだろうか?
無事だろうか?
無事だろうか




