魔法を使った訓練
形相とは、現象を引き起こす根本の要素である。
エイドスが、現実世界の質料を通じて、現象はこの世界に具現するという。
通常の物質的要因がヒューレに働きかけるとすれば、魔法はエイドスに直接作用すると言える。
例えば、団扇は物理的な力で空気の流れを変えて、結果として風を生み出すが、魔法はエイドスに作用して物理的な因果関係なしに風そのものを直接生ぜしめるのである。
エイドスに直接働きかける魔法は、原則として正確な詠唱としっかりしたイメージが必要だ。
詠唱の言辞を少しでも間違えると魔法は発動しないしイメージ不足でも発動しない。
逆に詠唱が異なっていても、正確な詠唱と確固としたイメージがあれば、エイドスに作用し得る。
為に種族によって異なる詠唱や口上が存在するのだ。
現在の魔法の主流は、種族固有の魔法以外は、エルフが使っていた魔法をヒューマンが自分たちに適した形に体系化したものである。
筋道の上では、魔法は詠唱によって神霊や精霊の力を借りるということになっている。
エルフィニアでは、森の精霊の加護が期待されるので、同じ風系統の魔法でも、エルフ系の詠唱がいっそう力を発揮できるのである。
そんなことをクララは分かりやすく、タケルに語った。
「よく分かりました。クララさん、ありがとう!」
「どういたしまして」
クララは満足げに見えた。
ルートヴィヒは、ヴィルフェルミナとヴァレンティーネを見やり、
「ヴィルフェルミナはクララと組んで、同じ訓練を。
ヴァレンティーネはそれがしの前に障壁を張る訓練を行う」
ルートヴィヒの言に従って、^_^訓練が行われた。
ヴァレンティーネは、魔緑石を使って、長めの文言を唱えると、分厚い障壁を築いた。
タケルは魔緑石で発動する魔法を初めて目にしたのであった。
自分もあのように発動できるようになれるのだろうか。
魔法習得に対してもタケルの期待は膨らむのである。
ヴァレンティーネが出現させた障壁をルートヴィヒが、サーベルで斬りつけたが、毀つことはできなかった。
「ヴァレンティーネ、いい障壁だ。
通常の魔獣では壊せないだろう」
タケルはゾフィーと戦闘訓練を始めた。
剣と鞭を使いこなすゾフィーからの要請だった。
タケルは木剣を再度持って、ゾフィーの鞭と対峙する。
鞭の攻撃を捌き、木剣を絡みとられないように注意した。
ゾフィーは、タケルが近づくと片手にサーベルも握り、防御に備える。
鞭の攻撃は予測がつき辛く、最初はタケルも苦戦した。
ふくよかなゾフィーの胸部には、豊かな双丘が並び、攻撃のたびにそれが揺れて、タケルはそれも気になってしまう。
その度に邪念を打ち消すタケルである。
(…そういえば、虐殺トカゲの尻尾の攻撃も予測がつかない動きだった)
タケルはあの時の戦いを思い起こした。
直感に従って尾による攻撃を防いだ。
鞭には体に当たる瞬間に対応すればよいということに気づき、うまく捌けるようになったのである。
驚異的な剣速を誇る者だけができる対応法だった。
ゾフィーは悉く自分の鞭先が防がれる事に焦りを感じたようだったが、タケルには冷静に対応していた。
数度タケルの木剣が防具に届いたが強い剣戟ではなかった。
タケルも容易に踏み込めなかったのである。
そのように相手を時折変えて組手の訓練をしているうちに終了の時刻の17:00を迎えた。
いい訓練になったとタケルは心から思った。
ルートヴィヒヴィルが、訓練の終了を告げて、騎士たちは貴賓館の建物に戻る道を歩く。
隊員やルートヴィヒと話しながら、タケルが貴賓館が面する大通りに差し掛かると、二頭立ての美麗な馬車がそばで停車した。
待っていた貴賓館の執事らしいスタッフが馬車の扉を開く。
降りてきたのは、小太りで頭が禿げ上がった中年に見える男性だった。
立派な魔杖を右手に持っている。
人懐っこい雰囲気が印象深い。
タケルの後ろを歩くクララが驚きの声を上げた。
「大魔術師のゴルービー様だわ!」
(大魔法師?)




