風魔法と剣技
タケルの体は急に地面から吹き上げられるような感覚に見舞われた。
地に足がつかず上に放り上げられたような状況になる。
しかし、あわてず、今の自分の姿勢を把握し、宙返りをイメージする。
上昇の速度がゼロに近づいた時に、タケルは一回転し、打ち込みに加重をつけつつ地に落ちんとする。
剣戟は止まらず地面にそのまま振り下ろされる。
ズボッ
固めた土に太刀がめり込む。
「タケル殿、その打ち込みです。
宙で回転して勢いを載せて、斬り伏す。
その感覚を忘れずに。
剣戟は止まらなかったのはやむを得ません。
もう一回、やってみてなされ。
クララ、お願いする」
タケルが地に刺さった太刀を抜くとクララは再び先ほどの文言を詠唱する。
タケルは再び宙に飛ぶ。
そして、巧みに回転し、太刀に勢いをつける。
着地する刹那に斬りつけたが
地にはギリギリ刃を立てなかった。
寸止めにしたのである。
「うん、先ほどよりいい。勢いが載っている」
「クララ、少し休んだら、また、風魔法でタケル殿を舞いあがらせよ」
「はい、承知しました」
「ニーナとパトリシアの組は、トラップを仕掛けるパトリシアの援護を想定して、弓を射る練習をせよ。
標的は向こうの標的だ」
ルートヴィヒの指差す方向には、木の的が見えた。
小柄で俊敏そうなパトリシアは木の的の方へジグザクに駆け出した。
そして的の5メートルほど前で伏せるやニーナが弓で矢を的に射る。
的に4本の矢が打ち込まれると、
「パトリシア、戻れ」という指示とともに彼女は復路を駆け出し、それを援護するかのごとく、ニーナの連射が的に加えられた。
慣れた連携だった。
日頃から訓練しているのだろう。
パトリシアが戻ってくると、
「タケル殿、私の方はもう大丈夫ですよ」
クララが声をかけてきた。
「クララ、ここは結界の中だから、次はエルフ系の文言での詠唱を試してみてほしい」
「分かりました」
「森の精霊よ、森の妖精の血脈に連なる我らを助けたまえ。
風を以って我ら護りたまえ」
先ほどより短い詠唱であったが、浮き上がる加速度はこちらの方が強い。
そう思った瞬間、タケルは先ほどよりおそらく2倍近く高く空中に上昇した。
二回転しながら落下するタケルを見て、クララが、
「風の褥にても護りたまえ」
と詠じると、
タケルは地面に着地する際に、ふわっと浮く感じを覚えて、太刀を土に叩きこむことなく、着地できたのであった。
「やはり、結界の中に入るとエルフの精霊の加護が強くなるようだな」
ルートヴィヒが呟く。
「どういうことですか?」
「私が答えますね、タケル殿」
クララの説明によれば、ノルトラント育ちのハーフエルフであるクララは、エルフの母からエルフ系の詠唱で学び、公的機関では、ヒューマン系の詠唱で魔法を学んだのだという。
ハーフエルフゆえ、純粋エルフに備わるほどの魔法力はなく、ヒューマニアでは、ヒューマン系の詠唱の方が実用的な場合も多かったので、エルフ系の詠唱はしていなかった。
しかしながら、エルフの森の結界内では、エルフ系の詠唱の方が発動速度も威力もやはり上だった。
結果外のホヤンスクは、どうか分からないが、エルフ系の詠唱の方がエルフィニア国内では、力を発揮できるだろうと予想される。
同じ効果の魔法を違う詠唱で可能なのはどうしてなのか?
魔術師にとっては初歩的な質問をタケルは発したのであるが、クララは丁寧に答えてくれた。
それは詠唱が形相に作用するからだという。




