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アンドロポフ

エルフィニアの政治体制は、大まかに言えば、年長の長老たちによる集団指導という形を取っている。


最長老が最高神官を兼ねて、国家元首的な存在となっているが、それは象徴的な存在であり、大きな権力はない。


エルフは長寿であり、200年以上生きる長老たちは、世俗への関心が薄れ、魂が森林と一体化していくようなところがあるため、実際の政務を執り行うのは、長老の下につく助言者(ザヴェートニク)と呼ばれる補佐官たちであった。


また、長老は原則として、建国以来の由緒ある十の家門から選ばれる。

その家門がエルフ十旗と言われる氏族である。


そのエルフ十旗がそれぞれの地域を取りまとめる。


都ツェントルが位置する中央地域に大長老を頂き、周辺の東西南北の森林は、十旗が治め、緩やかにまとめる。


一種の連邦国家的な統治機構であるが、国全体のこと、特に軍事と外交は長老会議で方針が定められ、エルフィニアとして統一された行動を取っていた。


中央集権ならずとも、分裂傾向は見られず、国としてのまとまりが強いのは、エルフは聖なる森林の民という意識が共有されているからだろう。


独立傾向の強い領邦を抱えているビザウム帝国とはこの点が大きく異なっていた。


フェルトと昼餐を共にしていたアンドロポフは、北部を統括する十旗、ウートロ家を出自とする。

叔父が長老であり、その補佐官(ザヴェートニク)という立場だ。


世相に興味を失いつつある叔父に代わり、エルフィニア北部の政治と軍事を取りまとめる立場にあった。


普段は北部森林の中央部にあるエニセイに住むがホヤンスクの襲撃の報を聞き、北端の大門に赴いたのである。


北部国境は100年以上平穏であったので、今回の事はアンドロポフにとっても予期せぬ事態だった。


兆候はまるで感じられなかった。

イレギュラー迷宮(ダンジョン)の可能性があるが、魔獣が出現してもこんなに多数の魔獣が迷宮から出てくる事は余りない。


何か良からぬ事態が生じているのだろう。

そして、それはタケルというマレビトの出現と何か因果があるのかもしれぬ。


フェルトとの会食を終えて、貴賓館の一画に設けた執務室に戻ったアンドロポフは思案していた。


「サーシャ君、エリナ大尉と至急連絡を取ってほしい」


アンドロポフは、事務官の服装をした緑のロングヘアーの女性に指示を出した。


「承知しました」

サーシャは即座に応えた。


***

ノルトラント一行は合計9人ほどであったが、貴賓館の南側の一角をすべて割り当てられていた。


友好国である事、そしてフェルトの治癒魔法や剣聖ルートヴィヒの存在も大きいであろう。

今後の状況が見えない中、万一の時は剣聖の戦闘力を期待しているのであろう。


フェルトたちについて、会合で決まったのは以下のことであった。


当面、貴賓館に拠点を置く。


形の上では、エルフィニア軍の指揮下に入るが、遊撃隊のように臨機応変に戦うことが出来る。


大門とホヤンスクを結ぶ街道の警備と防衛にあたる。


この街道は1キロもないが非常に重要である。


ホヤンスクが魔獣に蹂躙されなかったのは、この街道の確保に努め、物資や人員をエルフィニアの北部森林地帯から送り続けたからであった。


もしも魔獣を統制する者がいるとしたら、この街道の分断を図ってくるに違いない。


ルートヴィヒを擁するフェルト一行は重要な役割を与えられたと言って良い。


フェルトが配下の者に今後の方針を伝えていると、貴賓館所属のメイドがやってきた。


「一乗タケル様がお越しになりました」


「受付の広間で待ってもらってほしい」


フェルトはそう言って、ルートヴィヒに顔を向けて、


「妾は本国に手紙を(したた)める。よろしく頼む」


「かしこまりました」


ルートヴィヒは執事のように落ち着いて応えた。

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