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賓客館

タケルは掌に痛みを覚えたが、冷静を装って強く握り返した。

ジムという男は剣士の握力の強さというものに思いが至らなかったようだ。


強い剣戟は(つよ)い握力を要求する。

そうでなければ、激しい打ち込みで剣がすぐに弾け飛んでしまう。


タケルは瞬間的な握力は極めて勁い。

見た目だけでは判断できないのだ。


タケルが本気を出すと男はみるみる顔を歪めた。


「ハハハ、あんた、握る力がかなり強いぜ。参った、参った」


と言って、作り笑いをこしらえ、自ら手を離そうとした。


タケルは男がフリーになっている左手で変な動きをしないかを確認し、握手を解いた。


「あんた、力も強いなぁ。名が売れだしてるから、これから不意の攻撃や挑戦を受けると思う。

気をつけてな」


「助言に感謝します」


タケルは浴槽から出て、もう一度頭から水を浴びると着脱場に移動してタオルで体を拭う。


係りの者がやってきて、


「申し訳ありませんが、これから女性の時間になります」


「分かりました」


タケルは着替えを済ませ、出入り口から出る。

すると、


「あら、タケルさん!」


フォクラの声だった。


「タケル、風呂に来てたんだ」


隣にはアスカがいた。


「うん、どうしても風呂に入りたくなってね。すっきりしたよ!」


「ここは女性専用の時間帯があるから嬉しいですね。

だから、宿泊客は女性も多いんですよ」


「そうなのですね」


たしかに彼女らの他にも4、5人の女性が待っていた。


「では、フォクラさんもアスカもゆっくりくつろいで!」


「護衛の仕事から戻ったらまた連絡するわ」


「ああ、アスカ、分かったよ。じゃあ、フォクラさんもまた会いましょう〜」


こう言って、タケルは宿泊所ストロイカを後にしたのであった。



***

ホヤンスクの町から南に1キロ足らずのところに大門(ヴァローチェ)があった。

エルフィニアの北部森林大結界の北端に当たる。


大門を通ってすぐのところに貴賓館は位置していた。

エルフィニアの高官や外国の賓客が滞在・逗留する場所。


本館は木造ではあるが、周りにはエルフィニアには珍しくレンガ建ての建築も見られた。


エルフィニアは国土の8割以上が森林におおわれ、各種木材が豊富である。

また、エルフは自分たちは森林の妖精の子孫であるという自負もあり、木材が建材としても一番好まれるのである。


しかもエルフの魔法で不燃効果や強度を付与できるので燃えない頑丈な建物を作ることも可能だった。


そんな事情からエルフィニアは宝嶺島で最も木造建築や木工芸が発達した地域と言える。


貴賓館の本館は二階建てで横に長く、全面が白く塗られ、白亜の殿堂のような趣が感じられた。

その二階に公女フェルトを始めとするノルトラント一行は滞在していた。


公女フェルトは、昨夜この場所に至ったが、朝からエルフィニア北部の要人と次々会談を行っていた。

そこには剣聖ルートヴィヒも必ず立ち会った。


昼食をとりながら面談していたのは、エルフィニア北部の高官、アンドロポフ・サスーリカ・インナ・ウートロだった。


「エルフィニアの乾乳はやはりうまい、なあルートヴィッヒ」


フェルトは乾乳がかかった川エビのすり身を食べながら同意を求めた。


「さようでございますな。このような乾乳はノルトラントでは食べられませんな」


「お口にあって良かったです。私は貴国滞在時には海の幸が楽しみです。エルフィニアでは取れませんので」

がそれは何よりです」


「うん、確かにノルトラントの海産は美味かもしれない。

ところで、アンドロポフ卿、昨日そなたの姪っ子さんに会った。エリナ大尉に」


「そうですか。最近会っておりませんでしたので、元気にしておりましたか?」


「元気そうであったぞ。そこで面白いことが分かった。

エリナ大尉は、マレビトと行動を共にしているようだな。一乗タケルとかいう若者と」


アンドロポフは先ほどの正式な会談では、この話題にはあえて触れなかったが、フェルトが知っているのならば隠す必要もない。


「そのようですね。私も人伝いに最近聞いたところです。そのタケルという若者には会っておりません」


「妾はすでに会った。実はルートヴィッヒと手合わせをしたのじゃ。なかなか、善戦したぞ。凛々しくて好感もモテる男子じゃった」


アンドロポフはルートヴィッヒとの手合わせについて、早朝こちらについたばかりに部下から聞いたのだが、半信半疑だった。

しかし、フェルト公女が言っているのだから嘘ではあるまい。


剣聖といい戦いをしたというのは、剣の腕は相当なものだろう。


「今日はこれからタケル殿と会う予定なのだ。ルートヴィッヒの手ほどきを所望しての。

タケル殿にはわが親衛隊の訓練にも協力してもらう予定だ」


「部下からそのようなことを少し聞いておりました」


グスタフ大佐からアンドロポフ直属の秘書に伝えられていたのである。


「マレビトゆえ、どこの国の者というわけではないが、エルフィニアに転移してきたのは何かことわりがあろう。

タケル殿はエルフィニア防衛の任務についているとも聞いた。しかして、エルフィニアの戦士に準じた者としてこちらも対応する」


「承知しました。それは有り難い。確かにマレビトが現れるのは何かこの国で使命を帯びているのでしょう。

ご配慮に感謝します」


アンドロポフはフェルトの外交センスに感心した。

タケルに関わって何か起きた際の責任の所在とエルフィニア防衛に対する自分たちの配慮をさりげなく伝えたのだろう。


アンドロポフはいずれにせよ、早く一乗タケルという剣士に会う必要があると思った。

彼の意向を確かめエルフィニアにプラスになる処遇を見出したいと考えたのであった。

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