湯屋を見つけ
日はほぼ沈み、街道を行く馬車に魔法の光球がつけられいる。
グスタフがフェルトに挨拶し、
「この度は防衛のご助力、ありがとうございます。
私はエルフィニア北部方面隊所属大佐グスタフ・ナサロークです。
ホヤンスクの町長が目下手が離せず、防衛任務の臨時責任者である私が参りました」
「承知した。
よろしくお願いする。
妾たちはどこへ行けば良いか?」
「はい、そのことですが、まずは、大門そばの森林結界内にある貴賓館に滞在いただき、然るのち、防衛任務について頂こうと思います」
「了解だ。では、案内を頼む」
「エリナ大尉が案内します」
「それとグスタフ殿、タケル殿に親衛隊の訓練も頼むことになった。また、タケル殿も指南役のルートヴィヒから教えを受けたいということだ。
任務に支障がないようにするゆえ、この件、よろしく頼む」
「承知しました。ちょうどタケル隊員は私の小隊に属していますから、そこは柔軟に対応しましょう」
グスタフはタケルの方を向いて、
「タケル隊員は今夜の任務は予定通りに。
明日以降は、ノルトラントのご一行と時間を調整して、行動するように図りたい。
その話は、また、今夜に」
「了解であります」
タケルはノルトラントの騎士団に別れの挨拶をすると西門に馬で乗りつけホヤンスクの町に入った。
自前の灯びがないので、南門そばの天幕に戻るのに、町の灯をあてにしたのである。
西門から中央広場に続く道を行く。
嘆きの崖を目指す巡礼者たちが次々この町を脱出していると聞いたが、人出は多かった。
今回の魔獣襲撃をビジネスチャンスとみた商人たちが近隣からやってきて、武器や食料を卸したり、邪悪ウルフの毛皮や魔獣の角を仕入れたりしているようだ。
物資を運ぶ荷馬車がまだ行き交っている。
篝火や魔法の光球で灯りが確保されているのはタケルにとってもありがたい。
ゆっくりとペガサスを歩ませていると浴槽と水煙の絵柄が描かれた看板を認めた。
(銭湯?)
タケルは気になった。
エルフィニアに来てから風呂というものに入っていない。
三日三晩床に臥せていたからということもあるが、水で浸した布で体を拭くくらいで済ませていた。
エルフィニアの民は風呂に入ったり、湯あみはしないのだろうか。
エリナやエルゼたちはこざっぱりしているから、自宅では湯浴みをしてるか、どこかで体を洗っているはずだ。
あるいは、エルフは水魔法が使えるようだから、自分に洗浄魔法でもかけるのだろうか。
そんな疑問も湧いてくる。
もしもあの看板の店が銭湯のような場所なら、今日は難しいが、明日にでも利用したい。
タケルは興味に駆られて、建物の入り口の馬止めに乗りつけた。
馬の見張りをしているらしいヒューマンの中年男性に、
「ここはどんなところですか。風呂は入れます?」
「あんたこういうとこ初めてかい?
ああ水風呂なら入れるよ。蒸気風呂もさ。
女を呼びたいなら呼べる。いろいろなやり方で気持ちいい按摩してくれるよ」
「その、蒸気風呂と水風呂だけを楽しむことはできますか?」
「それももちろんできるよ。だいたいの利用者は女を呼ぶけどな。
風呂だけの場合は、入場料金だけでいい。銅貨30枚だ。
湯女の通常の按摩を頼んだら、追加20枚。
それ以上のことは、いろいろなコースがあるが、まあお楽しみコースなら銀貨1枚はいるな」
(銅貨30枚ならなんとかなるな…)
「今日は都合が悪いので、また、今度、来たいと思います。
早ければ明日にも」
「そうかい、じゃ、またよろしく」
「そうそう、ここは何という店ですか?文字が読めないので」
「湯屋夢だよ」
タケルはホヤンスクでの楽しみが一つ増えたと思った。
湯屋から離れるとそのまま南門の天幕を目指したのであった。




