タケルの願い
タケルの負傷がフェルトの魔法ですっかり治癒した様子を眺めて、エリナはホッとしていた。
ノルトラント大公のエーアトベーレ家の血統に継承される強力な治癒魔法。
宝嶺島の最高水準であり、この魔法もノルトラントの国力の源泉の一つになっている。
母ミレーヌも治癒魔法はできるがフェルトには全く及びもつかない。
エーアトベーレ家本家の血筋を引く者の大半があれくらいの治癒魔法ができるのなら、やはりノルトラントの力は侮れない。
また、エリナは続けて惟う。
先ほどのタケルとルートヴィヒの剣技の応酬は凄まじかった。
ルートヴィヒが押してはいたが、タケルは目に見えないくらいに速い剣聖の剣戟を防いでいた。
のみならず、連弾の突きが、ルートヴィヒの喉元を一度は摩する寸前だった。
ルートヴィヒが瞬時に後ろ回転で逃れたのは高度な体捌きだった。
しかもすぐに反転しタケルの両肩を砕いた。
剣聖の名は伊達ではない。
しかし、タケルもさすがだ。
おそらく、慣れぬ形状の木剣を用いて、剣聖を相手に善戦できたのだ。
それも驚嘆すべきことに違いない。
ボブゴブリンを斬り伏せるという最初の出会いの日からタケルには底知れぬものを感じていたが、この世界に来てどんどん力をつけているのではないだろうか?
タケルの今後が気になる。
手合わせのタケルから目が離せなかった。
自分ももっと強くなりたい。
弓と魔法の力をさらに磨きたい。
英雄であった父に追いつくためにも…。
そんなことを思っていたエリナは不意に任務を思い出し、ヴィルフェルミナに近づいた。
「ヴィルフェルミナ殿、今から私が城門の衛兵に到着を知らせ、一旦城門そばの休憩所で待機していただこうと思います。
そして、上司の指示を仰ぎ、今後のことをお知らせしましょう。
しばらくお待ちください」
「エリナ殿、お手数掛けます」
エリナはフェルトに一礼すると城門の方へ駆けて行った。
タケルは剣術のことでルートヴィヒと話していたが、意を決して自分の思いを告げる。
「ルートヴィヒさん、一つお願いがあります。
ホヤンスク滞在の間、剣術を教えていただけないでしょうか。
もちろん、都合の合う場合に少しの時間だけでも」
「それはどうしてですかな?」
「ルートヴィヒさんが途轍もない剣士だからです。
学ぶべきことがたくさんあります。
私は数日前に宝嶺島に突然送り込まれました。
どうやらマレビトらしいです。
来てすぐにボブゴブリンと戦わざるを得ませんでした。
ホヤンスクの警備の仕事も引き受けました。
今後も私には戦いが待ち構えていることでしょう。
この地で生き抜くために今より一層剣の腕を磨きたいと思いました。
また、今はよく言えませんが、誰かを守るためにも」
「誰かを守るためですか。
それは大切なことです。
拙者もぜひタケル殿と剣を交わし合いたいと思っておりました。
拙者も歓迎します。
ホヤンスクにいる間だけでも剣を交えましょう」
「ありがとうございます」
タケルは頭を下げた。
「マレビトですか。
どうりで少し変わった剣術を使うと思いました。
とは言え、やはり剣の基本はどの世界でも同じですな。
タケル殿は北斗の剣をすぐに教えることができます」
「そうなのですか?それは買い被りすぎですよ」
「いやいや、タケル殿は教官が可能です。
拙者は免状を出せますから、北斗の剣術の型を覚えてくれたら出しましょう。
それはこの地で生きていくのに役に立つはずです。
せっかくの機会なので、私がタケル殿に稽古をつけるとともにヴィルフェルミナに剣を教えてやってくれませんか」
ヴィルフェルミナは驚いていた。
「ヴィルフェルミナは盾を持った戦闘は極めて強いです。通常の魔獣は屠れるでしょう。
しかし、片手では切り倒せない魔獣や強者とも出会う事もないとは限りません。
盾が使えない状況もあり得ます。
そんな時のためにも、両手握りの斬撃や鋭い突きをヴィルフェルミナに教えてやって欲しいのです」
「分かりました。ヴィルフェルミナさんが望むのなら」
タケルはヴィルフェルミナの顔ばせを見た。




