剣聖との勝負
「エリナ大尉は、タケル殿と知り合いなのか?」
フェルトが訊く。
「数日前に会ったばかりですが、妹の命を救ってもらった縁で一緒に行動しています」
「そうか、そういう縁か。
タケル殿はいったい何者だろう。
黒い髪に黒い瞳は珍しいヒューマンだ。
南のリャオあたりの人だろうか?」
「私も分かりません。眼が覚めると結界のそばの森で倒れていたそうです。
一つ言えるのは、タケル殿は剣の腕前が凄いということです。
ボブゴブリンを倒したり、虐殺トカゲを斬り伏せたり」
「そうか。虐殺トカゲが討たれたと道中聞いたが、タケル殿だったのか…。
実は今からタケル殿はルートヴィヒと剣の手合わせをするところじゃ。
木剣で防具ありだから決闘ではなく剣技の試合のようなもの。
何かあれば妾が治癒魔法を施す。
安心してくれたらよい」
「エリナさん、そういうことなんです。果たし合いでも決闘でもありません。
僕がルートヴィヒさんの胸を借りて手合わせするというものです」
だから邪魔をしないでほしい
というタケルの思いが言外に伝わって来た。
「タケル殿は闇魔法師ともさっき戦ってるのだから、無茶はせずに。
剣聖様に本当に胸を借りる気持ちで」
エリナはただこれだけを伝え見者の1人となった。
「ほう、昨日は虐殺トカゲを斬り伏せ、今日は闇魔法師とも戦ってるのですかな。
タケル殿とは剣の交え甲斐があるようだ」
「ルートヴィヒさんが伝説の剣士ならいっそう腕がなります」
2人は広場の中央で2メートル弱離れた。
そして向き合って一礼をする。
号令役はフェルトだった。
「始め!」
木剣での戦いの火蓋が切って落とされた。
タケルの中段の構え、ルートヴィヒは上段に構えた。
(隙がない…)
静かに間合いを詰めるタケル。
ルートヴィッヒは動かない。
この手合わせを見る者はノルトラント一行とエリナと野次馬のように集まった十数人。
まず、タケルが動いた。
素早く距離を縮め、木剣を縦に振り下ろした。
とそこにはルートヴィヒの姿はない。
「ガシッ!」
真横から縦に入った打ち込みをタケルがかろうじて防ぐ。
(何故横に?
動きが全く見えなかった)
ルートヴィヒの姿を認めるやすぐに消えて近距離からの剣戟がタケルを襲う。
「ガシッ!」
なんという移動の速度か。
2メートルほど距離があると思えば、突如、間近に現れ剣を振るってくる。
打撃を防御しているとはいえ、ヴィルフェルミナの時と同じく、防戦一方の展開だ。
先ほどと違うのはタケルのサビついていた刺突が冴えている。
つまり、剣技が上がっているに関わらず、ルートヴィヒに攻めの打ち込みができないのだ。
妖術でも使っているかのようにルートヴィヒは変幻自在に八方から攻撃を仕掛けてくる。
鋭い突きがタケルに放たれた。
タケルは木剣の刃の根元に相当する部分でかろうじて防いで見せた。
見る者はそんな刺突の止め方ができるのかと一応に驚く。
剣戟を今は紙一重で防いでいるが、遅かれ早かれルートヴィヒの剣先がタケルに届くだろう。
剣聖の動きがほとんど認識できないのだ。
タケルはいったん距離を取った。
ルートヴィヒは攻撃を控えて動かない。
その次のタケルの行動に期待するような余裕すら感じられる。
(このままじゃ何もできず終わってしまう。
あの技をやってみるしかない…)
そして両手で持っていた木剣を右手一本に持ち直し、斜め上段に構えた。
タケルは目を閉じた。
それは幻惑を払うという秘剣、
今は亡き祖父から一度見せて貰った、
妖斬り
の構えである。




