ボブゴブリン
ズバッ、ズバッ、ズバッ
あれからどれくらい経っただろうか?
タケルは太刀を振り抜き続ける。首、腕、肩、手首、いろいろな部位が飛び散る。
血しぶきが舞う。
ゴブリンの死骸がタケルの周りに散らばっていた。
それでもゴブリンは、諦めもせず掛かってくる。
槍で出来た太腿の傷から流れる血はタケルの意識をゆっくり刈り取っていく。本来ならもう出血多量で死んでいてもおかしくない。
だが、ここまで意識を保てているのは、きっと御神体でもあるこの太刀のお陰だろう。
そう思ったとき、ゴブリンたちの動きが止まり、静まり返った。そして、道を作るように真ん中を空け始めたのである。
なにかがゆっくりと歩んでくる。
ゴブリンの3〜4倍くらいの体躯のそれは、右手に大きな長方形型の刃物を持っていた。
大型のゴブリンだ。
ボブゴブリンと呼ばれる類のものだろう。
分厚い胸板と太い腕、いかにも力が漲って見える。
タケルの方に近づいてくる。
タケルは身構えた。
この大型の種はここに群れなすゴブリンたちの棟梁みたいなものだろう。
討ち取れば、群れごと敗走するのではないか。
ボブゴブリンは、タケルの数メートル先に来ると体の大きさがいっそう実感された。3メートルはあるだろう。
それはタケルを見下ろすと四角い中華包丁のような大刀を振り上げて咆哮を上げた。
グアー!!!
地が震え、耳をつんざくような声量だった。
「いくぞ!」
タケルが気後れせず、縦の剣戟を浴びせる。
ボブゴブリンが大刀で横に薙ぎ払う。
太刀ごと、タケルは飛んでしまいそうだったが、それを転換の力に変えて右足を軸に体を回転させ、横の斬撃を敵の脚に入れようとした。
敵は大刀で己の足元を守る。俊敏な動きもできて、パワーだけの怪物ではないようだ。
ボブゴブリンが大刀を突き出す。
太刀でなんとか受けいなした。
四角い刃物ゆえ突いても平べったいから切れはしない。
が、その身でまともに受けたら打撃の破壊力で今のタケルは即死だろう。
ボブゴブリンは縦に切りつける。繰り返されるその剣戟をタケルは十文字に横の太刀で受け続ける。
一見細身のタケルの長剣だが、大型の刃物による激しい衝撃を受けても刃こぼれ一つせず、タケルの命脈を守っている。
しかし、受けるだけでは体力が剥ぎ取られ、やがて敗北を迎えるだろう。
活路はないのか?
そう考えたとき、ボブゴブリンの縦方向の剣筋が不意に変わり、横から激しい力で掬い上げたのである。
タケルは太刀を垂直に立てて対処したけれども、刀同士が当たった衝撃で横に飛ばされて、地に転がった。
初めて太刀を手放してしまったタケル。
数メートル離れたところにタケルの命を守っていた唯一の武器が転がっていた。
タケルは身体の痛みを顧みず、太刀に向かう。
それを見逃すボブゴブリンではない。
怪物が無刀のタケルに突進して大刀を振り上げたとき、タケルは振り向いて、剣戟を避ける最期のあがきを試みようとした。
その瞬間、
グサッ!!!
ボブゴブリンの太い首に矢が刺さったのである。




