剣聖ルートヴィヒ
ルートヴィヒはタケルと同じ条件にするために形だけ防具をつけた。
木剣は2人とも先ほどと同じタイプで、別のものに変えた。
ヴィルフェルミナとタケルが使ったものは激しい打撃の応酬で脆くなっていると思われたからである。
「妾が形だけの判者となるがどちらかが参ったというか、剣が握れなくなれば負けということにする」
「仰せのごとくに」
「分かりました」
2人が剣を持って向かいあおうとすると離れたところから、
「タケル殿、いったい何をしている」
という聞き慣れた声がした。
見るとエリナだった。
タケルは驚いて、
「エリナさん、どうしてここに?」
「あの後、闇魔法師への警戒を促すため、軍や警備関係者のところへ行ってたところだよ。
西門に来たらノルトラント大公国騎士一行とタケル殿が何やら立ち合いになってると聞いて駆けてきた」
タケルたちを遠巻きにして何人かの見物人が認められた。
離れたところでやり取りを見て集まって来たのだろう。
「貴殿は、軍の関係者か」
側にいたヴィルフェルミナが訊いた。
涙は既に拭い去っていた。
「はい、そうです。
エルフィニア北部方面隊所属大尉エリナ・マグノーリヤ・インナ・ウートロです」
「私はノルトラント大公国第1公女にしてイエーナ侯爵フェルト様の親衛隊隊長を務めるヴィルフェルミナ・フォン・オーデルと申します。
この度エルフィニア北部が魔獣の大群に襲われたと聞き及び、フェルト様のご発案により助力のため滞在先のイエーナ侯爵領から急ぎ参上しました。
これからホヤンスクの防衛に助力したいが、予定よりだいぶ早く到着したので後ほど担当者から指示を願います」
「はい、了解しました。
今、担当部局が混乱しています。
その為フェルト様がいらっしゃるので、おそらくホヤンスクの城内ではなく、その南に位置するエルフの森の結界内に入り、指定の場所で待機していただくことになるかと思います」
「了解です」
「ところで、話の途中すまぬ。
エリナ大尉、そちはエルフ十旗の家門のようだな…。
救国の英雄、ジューコフ将軍の縁者であるか?」
フェルトの声は威厳を含んでいた。
「はい、私の父でございます」
「そうなのか。あの大災厄の話は妾も聞いている。
武人の鏡のような、立派な父上でいらした。
惜しい人をエルフィニアは失ったものだ」
「そのお言葉、恐縮いたします」
「ジューコフ将軍には若い頃大変お世話になりました」
ルートヴィヒも話に加わった。
「あっ、貴方はまさか。
剣聖ルートヴィヒ様ですか?小さい頃にお会いしたと思います」
「そうでしたな。
お久しぶりです、エリナ殿。
しかして、『剣聖』とは大げさな。
もう現役からは引退した身ですよ。
今はここにおわす公女フェルト様の親衛隊を指南する身。
後進の指導でそれなりに充実しておりますが」
エリナは驚いていた。
早ければ明日ノルトラント大公国の小騎士団がホヤンスク防衛の助力の為に到着する。
このように先ほど臨時司令部で聞いたばかりであった。
予定より早く到着しているばかりか、公女のフェルト侯爵に加え、宝嶺島北部最強と謳われた剣士、ルートヴィヒまでも同行しているのだ。
フェルト公女の滞在にはホヤンスクの町長はじめ北部の行政官たちは大慌てになるだろう。
もちろん、グスタフ大佐も。
エルフィニアの友好国であり、小国ながらもビザウム帝国を支え、古い歴史と大きな政治力を持つ尚武の国。
彼女の属するエーアトベーレ本家は、皇位を決める七選帝侯の一つにあたり、南部のアプフェルバオム家と並ぶビザウム帝国きっての名門である。
その第一公女が魔獣の襲撃直後のこの町に予告なく来ているのだ。
もちろん、ルートヴィヒが護衛についているからそんな事も出来るのだろう。
また、ルートヴィヒの到来は守りに着く者の心を明るくするに違いない。
宝嶺島北部最強だった剣士が陣営に加わるのだから。




