勝負の決着
バキッ!
円盾が砕け、ヴィルフェルミナは木剣を手放して後方に倒れ込んだ。
周りの者は一瞬何が起きたのかわからなかった。
だが、ルートヴィヒには見えていた。
三本突き。
タケルの突きは、ヴィルフェルミナが一本打つ間に三本放たれていたのである。
いずれも強力な刺突で。
最初と二本目の突きで円盾を破摧し、最後の一本で彼女の右肩を撃った。
「それまで!」
ルートヴィヒの声が再び響いた。
「タケル殿の勝ちじゃ。ヴィルフェルミナは剣を握れまい」
ヴィルフェルミナは立ち上がって、苦痛で歪みかけた顔を正し、タケルに向き直った。
「タケル殿、見事な突きでした。円盾が壊れるなんて初めての経験です」
「ヴィルフェルミナさんこそ、攻防が一体となった見事な戦いぶりでした。
防戦する一方でした。
実はある事情で突きがちゃんと打てなくなっていました。
しかし、あなたが僕の力を引き出してくれました。
あなたの剣に接してどうしても勝ちたいと思ったのです」
「そういう事情があったのですね」
ヴィルフェルミナは突きだけが鋭さを欠いたタケルの剣技に違和感を覚えていたが、話を聞いて納得できたのであった。
この人は強い。
木製とはいえ、盾をも砕く突きができるのだ。
しかも同じ材質の木剣でだ。
的確で力が集中された刺突でなければ有り得ないことだ。
ここまで粘れた自分をほめてやってもいいのかもしれない。
しかし、悔しい。
「目に見えない檻を破ることができました。
ありがとう、ヴィルフェルミナさん」
タケルの真っ直ぐの視線がまぶしく感じられた。
言葉だけではない感謝の思いが込められている眼差しだった。
この人は文字通り全力を出して自分を倒しに来た。
悔しさもあるが自分も感謝したい。
「こちらこそ、手合わせを受けて頂いて感謝します」
ヴィルフェルミナがカールのかかった長い金髪の頭を下げると、ルートヴィヒが口を開き、
「フェルト様、ヴィルフェルミナは右肩の骨が砕けています。すぐに治癒魔法をお願いいたします」
「分かった。ヴィルフェルミナ、こちらへ」
「フェルト様、お手数をかけます」
ヴィルフェルミナがフェルトの前に佇むと、
「世界を作り給いし偉大なる神よ。
この世を統べる慈悲深き神よ。
命を与えられし我ら子羊を嘉したまえ。
迷える我ら子羊を癒したまえ。
聖なる光を恵みたまえ」
詠唱が響くとフェルトの両手は白い光に包まれた。
そして、フェルトがヴィルフェルミナの右肩をやさしくさすると光は肩に宿りそして数秒後に消えた。
「フェルト様、ありがとうございます。肩の痛みがなくなりました」
「そうか、では、木剣を握ってみよ」
ほかの騎士が彼女に地面に落とした木剣を手渡すと、彼女はそれを右手で握り振ってみせた。
「その調子なら、大丈夫そうだな。
ヴィルフェルミナ、お前はよく戦った。
宝具を使えるような剣士を相手にあそこまで追い込んだのじゃ。
妾も誇りに思うぞ」
「フェルト様!」
ヴィルフェルミナの頬に不意に熱いものが零れだした。
それは、気遣ってくれる主人のフェルトへの感謝からとも敗北のくやしさからとも思われた。
タケルは治癒魔法に驚きながら、静かにその様子を眺めていたが、ルートヴィヒがタケルのそばにやってきた。
「ところでタケル殿、拙者からお願いができました」
「なんでしょうか?」
「拙者も一つ手合わせを願いたい。
タケル殿のあの三本突きを見て剣を振るいたい気持ちが高まりました。
そして、大人気ないが、弟子が倒された以上、拙者も報いねばなりません。
ノルトラントの名折れにもなりますので」
初老の剣士は穏やかな口調と表情ではあったが、その目は厳しい光を放っていた。
タケルはその気迫に呑まれそうになりながらも真っ直ぐに見つめ返していう。
「望むところです」




