ヴィルフェルミナとの手合わせ
タケルとヴィルフェルミナは、ルートヴィヒが佇む広場の中央に歩む。
渡された木剣は両者同じタイプで、形状は両刃の剣タイプ80~90センチ程の長さだった。
防具は剣道のものに似ていて、腹から胸を覆う革製のものだけで、面や籠手はない。
「ヴィルフェルミナは、実戦的な円盾を使う剣術が得意です。
そこで木製の円盾も使わせていただく。
タケル殿は盾を使いますかな?
使いたい時はもちろんお貸しする」
「いいえ、不要ですよ。盾は使ったことが無いので」
「そうですか。
では、両者構えて」
タケルとヴィルフェルミナは2メートル弱の距離をとって向き合う。
ヴィルフェルミナは左手に小さめの円卓、右手に木剣。
タケルは剣を両手で握りしめ中段の構え。
ヴィルフェルミナの双眸には力が漲っていた。
「始め!」
ルートヴィッヒの声が響いた。
最初に動いたのは、ヴィルフェルミナだった。
鋭い一の太刀がタケルを襲う。
タケルは受け流すも刺突が次々と繰り出される。
的確で速い連続の技。
ガッ、ガッ、ガッ、ガッ
木剣で全ての剣先を払うが弱まる気配は無い。
タケルは防戦を強いられる。
が、一瞬の隙をついて、肩めがけて速い打ち込みを為す。
しかし、円盾で簡単に御された。
その後も似たような展開が続く。
ヴィルフェルミナの連続した刺突を防御しては、たまにタケルからの攻撃があり、円盾で防がれるというパターンだった。
自分が押し気味の展開をヴィルフェルミナは意外に思った。
これが師ルートヴィヒが一目見て認めた剣士なのであろうか、と。
(タケル殿は突き技が不調なのだろうか?
確かに縦薙ぎや横薙ぎの打ち込みは的確で早い。
防ぐのがやっとだ。
なのに、突き技が精彩を欠きその打撃も強くはない。
円盾に戸惑っているのだろうか?
もともと突き技が苦手なのだろうか?
これは勝機だ…)
押し気味の状況に自信を持ったヴィルフェルミナの攻撃が一層鋭さを増す。
タケルは防戦一方だった。
(円盾がやっかいだ。巧みに扱われてこちらの反撃が防がれてしまう)
タケルがこの状況を脱するには実は、鋭い「突き」が必要だった。
しかし、ヴィルフェルミナ相手にうまく刺突が放てない。
タケルには「突き」が決まらない理由が分かっていた。
ヒューマン相手に突きを打とうすると無意識に萎縮してしまうのである。
インターハイのあの決勝で対戦相手に重傷を負わせた「突き」。
あの日以来、躊躇われるのだ。
しかも、「突き」に関しては、本格的な練習を丸2年ほとんどしていなかった。
刺突の剣技が鈍るのも蓋し当然だと言えよう。
デッドボールで相手を怪我させた投手が内角を投げられなくなるというイップス(精神的運動障害)のようなものがタケルの深奥に巣食っている。
しかし、この宝嶺島で生き残るには、剣の技を十全に発揮しなければならない。
この「突き」への躊躇を超えなければならないのだ!
この島での敗北は簡単に死に直結する。
ここで負けるわけにはいかぬ。
魔獣や魔人はもっともっと強大であろう。
ヴィルフェルミナの猛攻を辛うじて防いだタケルは一旦距離を取り、覚悟を決めた。
死中に活路あり。
緩やかに下段に構え、護りは捨てた。
ヴィルフェルミナが攻撃してきても防御一切せずただ距離を詰め突きを放つ覚悟。
その気迫が伝わったのか、ヴィルフェルミナもすぐには攻めて来ない。
じりじりと時間が経過する。
周りの者は固唾を呑んで見守っていた。
そして、お互いが呼吸を整え終えたその刹那、間合いを急激に詰めて、突きを撃ちあったのである。




