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意外な申し出

2018年12月18日 人名を一部修正しました。

「タケル殿、刀をお返しいたします」


とルートヴィヒは、太刀をタケルに返す。


「どうされましたか?」


「その刀剣はタケル殿以外には使えないようです。腕が矢庭(やにわ)に痺れました。

どうやら特定の者だけが使える宝具のようですな」


「そうでしたか。

特性に理解が及ばず、失礼しました。

人に貸した事が無かったので…」


タケルは昨日警備局長の秘書が言っていたことを思い出した。


この太刀は宝具でありタケルしか鞘から抜けないようだ、と。


「いえ、拙者こそ身の程を知らず失礼つかまつりました。

かかる刀剣を拝見し、旅の無聊も慰められましたよ。

しかのみならず、この刀剣を使いこなしているであろう、タケル殿の腕前もさぞかしと」


「ルートヴィヒさんは剣術を嗜んでいらっしゃるようですね。

立ち居振る舞いからすぐに分かります。

きっと今の私では1本も打ち込めない事でしょう」


こう語ったのは世辞でもなく、タケルの本心だった。

先程からルートヴィヒの仕草や剣の扱い方から並々ならぬものを感じていた。


隙がないのだ。


しかも視線でタケルは既に斬られていた。


剣さえ持たず、戦わずして相手を畏怖させるとは、このような境地の者が為しうる事なのだろう。


もちろん、勝てそうにない格上の相手でももし戦うとなれば、タケルは死力を尽くして切り結ぶのは言うまでもない。


「ははは。ご謙遜を。

拙者今は現役を引退しこの親衛隊で剣術指南を行う身です」


ルートヴィヒは朗らかに笑った。

気持ちの良い笑顔に見えた。


「ルートヴィヒ様、あの、すいません」


1人の女性騎士が馬に乗ったまま近づいて来た。


長い金髪には幾重にもカールがかかっている。

西洋人のように彫りの深い顔立ち。


宝塚歌劇に出て来てもおかしくない、ゴージャスな感じのする女性だ。


「ああ、タケル殿、もう城内に入らないといけないようです」


ルートヴィヒが少し残念がると、


「ルートヴィヒ様、違うのです。呼びに参ったのではありません」


「はて、どうしたことか?」


「実は私がこの御仁と剣の手合わせを願いたいのです」


「何とな?」


「今しがたフェルト様には相談し、ルートヴィヒ様が承諾するならば願い出ても良いとの仰せを頂きました。

試合は木剣と防具でと念を押されはしましたが」


「手合わせしたいのは何故ぞ?」


「ルートヴィヒ様が一目で認めた御仁、そんな剣士と弟子の1人として私は手合わせしたく思いました。

自分の力をぜひ試したいのです」


「ふむ。フェルト様も承諾された…。

タケル殿は強いぞ」


「だから挑み甲斐があるのです」


ルートヴィヒは少し考え込んでタケルの方を見た。


「そちらの方が希望されるなら断る筋合いはありません。

私の流派、真刀(しんとう)一乗流では挑まれたら、事情がない限り受けなければならないのです」


「そうですか。

弟子のわがままに付き合って頂き、かたじけない。

では、お願いしましょう。

場所はあのあたりがよろしいかのう」


ルートヴィヒが示したのは、少し離れたところの馬止めだった。


広場のようになっていて、馬用の繋ぎ木が何本か置かれている。


普段は馬をとどめ置いたりしているところのようだが、今日は使われてはいない。

剣の試合もできそうな広さである。


「そうですね。では、あそこで」


騎士の一団とタケルはその広場へ馬を進めた。

全員が馬から降りる

太陽は落ちつつあった。

馬たちに茜色がさしている。


タケルの方から、この一団を率いていると思われる公女フェルトへ歩み寄って挨拶した。


顔立ちも金髪のセミロングヘアも美しい。


「一乗タケルと申します。この度は臣下のお一人と手合わせをすることと相成りました。

お騒がせいたしますが、よろしくお願いいたします」


「タケル殿、無礼講で構わぬぞ。

わらわはフェルト・シュトローム・フォン・ノルトラント・エーアトベーレ、

ノルトラント大公(たいこう)国の第1公女ということになっている。

これも何かの縁であろう。よしなに頼む。

それとヴィルフェルミナはルートヴィヒに次いでここでは剣の腕が立つ。

タケル殿も油断は禁物じゃぞ。

一応、妾は治癒魔法ができるので少々の負傷は問題ない」


「ご助言とご配慮をありがとうございます」


「妾は高みの見物といこう」


フェルトは微笑していた。


先ほどの金髪カールの美麗な騎士が近づいてきて、


「タケル殿、名乗りが遅れてしまいましたが、私はフェルト様の親衛隊隊長ヴィルフェルミナ・フォン・オーデルです。

この度は手合わせを受けてくれてお礼申し上げたい。

女だからと言って、手加減はなしでお願いしたい」


「もちろんです。力を尽くして戦います」


タケルは子供は別として、誰であれ手加減は相手を侮辱する行為だと考えていた。

だからこそ勝負は全力を尽くす。


勝負が終われば、敵味方関係なく、打ち解ける。

そうありたいと思っている。


この麗人の騎士は勝負を挑んでくるのだから、きっと己の剣の腕前に覚えがあるのだろう。


油断するつもりは一切ない。


騎士たちのいくつかの鋭い視線がタケルに刺さっていた。

タケルは彼女たちにも挨拶をしようとしたが、


「木剣と防具の準備ができた。では両者こちらへ」


ルートヴィヒが2人を手招きした。

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