市場にて
食堂を出たタケルとエリナとエルゼは町の市場に向かっていた。
ベリー類を食べて飲み物をゆっくり味わっていた際に、タケルは買い物の相談をしたのだった。
当面必要な身の回りのもの、普段着、防具など、どんな店に行けば良いかを2人が一緒に案内するという流れになった。
市場は晴天もあって昼下がりでもちょっとした賑わいがあった。
冒険者達が多かったのは、タケルと同じようにこの町に来たばかりの者が品々を買い揃えているのだろう。
区画が小さく仕切られていて、諸々のものが売られている。
食材、食品、衣類、木工品、金属製品、装飾品、薬草…。
邪悪ウルフの採取したばかりの角も積まれていた。
昨日の今日でもう販売しているのはたくましい商魂である。
何に使うのであろうか?
売り手の声が耳朶に響き、香草や香辛料、香水の匂いが鼻腔を撫でた。
タケルが大きめの布のバッグ、タオル、シャツ、トランクスもどきの肌着、靴下、歯みがき楊枝、そんなものを買い揃えた。
銅貨で総額20枚ほどの出費で、銅貨は30枚近く、銀貨は4枚全て残っている。
高級品は買ってないとは言え、ホヤンスクの物価は安いように思われた。
あるいは貰った支度金が多額だったのか。
エリナとエルゼは主に菓子類を買っていた。
家から必要なものは持って来ているらしい。
「タケルさん、蜂蜜飴どうですか? 蜂蜜はエルフィニアの特産です」
エルゼが楽しげに言う。
「あ〜食べたいです」
エルゼが買ったばかりの小さな袋からタケルの右の手のひらに直接飴玉を落とす。
タケルはそのまま口に持っていった。
甘い。
蜂蜜の濃い味が舌に広がる。
蜂蜜は近代養蜂業が発達するまでは、貴重な甘味だったらしいが、エルフィニアでは、森の恵みとして豊富に取れるのであろう。
エリナもエルゼから貰ったのか、口中で飴を舐めながら、菓子ではなく、今度は売り物のアクセサリーを手に取っている。
細い鎖状のものに見える。
エルフは額をあのようなチェーンで飾っている女性が少なくない。
エレーヌもそうだった。
タケルは慈愛に満ちたそして豊満な膨らむを持つ、かの人を思い出していた。
ふと2人を見てみる。
エルゼもエリナも綺麗な容貌だ。
…エリナさんはミレーヌさんの面立ちに似ている。親子というのがすぐ理解できる。
緑色の髪に白い肌の色。
エルゼは雰囲気こそ似ているが容姿は別だ。
褐色の肌に金色の髪。
耳が小さくてちょっぴり尖もあるとは言え、ヒューマン風だ。
エルフではない種族なのは確実だ。
養子なんだろうか?
何か事情があるようだ。
自分からはこの事に触れるまい…。
「あっタケルさん〜!」
前方から聞き覚えのある声が聞こえた。
「フォクラさん。こんにちは昨日はどうも」
フォクラはフードを被っていなかった。
狐耳がやはり愛らしい。
「こちらこそどうもありがとうございます。
買い物ですか?」
「はい、その通り。身の回りの品などいろいろ。
フォクラさんも?」
「そうなんです。
食料調達というところです。パーティーのメンバーで来てました。アスカも一緒です」
フォクラが自分の後方を歩いていた2人に声をかけた。
「あらタケルも来てたの?」
「アスカ、こんにちは。昨日はありがとう」
「ああ、屋台の食事のお礼ね。大したことじゃないわ。分かってたらよし」
「お初です、タケル殿。アスカたちからお主のことを聞いてました。
拙者はドゼル・パンタノと申します」
こう言って前に出て来たのは、僧服のようなものに身を包む爬虫類顔のリザードマンだった。




