食堂の料理
店内は冒険者たちで賑わっていた。
タケルたち3人は待たされずに4人がけのテーブルに案内された。
床も壁も天井も白木を使っているようで、雰囲気のいい店だとタケルは感じた。
客はいろいろな種族が見られるが、店員はハーフエルフが多いようだ。
「タケル殿、適当に注文させて貰うよ。エルゼはリクエストあれば、言って」
とメニューを手にしたエリナが告げた。
「余り料理がわからないので、エリナさんたちにお任せします」
とタケルは答えた。
「姉さん、卵料理が食べたい」
「分かったわ」
エリナは店員を呼ぶと注文を告げた。
はじめにハーブティーが出された。ペパーミントが入っているようだ。
ハーブティーはこれで3回目だが、エルフィニアでは、香草類のお茶が愛飲されているのだろう。
料理を待つ間、エルゼが治療看護班の状況を話してくれたが、魔獣に噛まれた傷がやはり厄介だという。
運び込まれても出血多量で命を落とした負傷者もいて痛ましいということだった。
エルゼも当分ホヤンスクで治療と看護に当たる事に決めたとエリナに報告した。
エリナがその決断に賛意を示したところで、第一の皿が運ばれてきた。
茶色い四角形をしたものが串に刺されている。
人数分が載っているが、炙られていて、その上にチーズのとろけたものがかかっている。
「これは何ですか?」
「どんぐりの粉を練ったものを焼いた食べ物です。チーズと相性がいいですよ」
とエルゼが説明する。
「森ではたくさんのどんぐりが取れるからね〜」
エリナが串を掴んで食べ始める。
タケルもがぶりと噛み付いた。
餅を少しパサパサさせたような噛みごたえだったが、チーズといっしょになると美味しさが増すようだ。
粉パセリのようなものも振りかけられている。
「これはいける!」
思わず口をついたタケルの賛辞。
どんぐりは、縄文時代の日本でもよく食べられていたと聞いていたが、実際食べるのは初めてだ。
水につけたりしてアク抜きが必要らしいが、結構美味しいものなのだなぁ。
そんなことをタケルが考えているとスープ皿が運ばれてきた。
さっぱりした塩味のスープにムカゴのような小さな芋とカブトムシか何かの幼虫が入っていた。
昨日のエルゼ考案の料理にも使われていたが、幼虫はここら辺では、ポピュラーな食材なのだろう。
次に登場したのは、菜っ葉入りの卵焼きだった。
青物はほうれん草に近い味だ。
エルゼは嬉しいそうに口に運んでいた。
その次には、茹でた里芋らしいものが多数大皿に置かれた。
緑色のソースが小さな器に入っている。
エリナもエルゼも里芋を手でつまんで、ソースに絡めて食べる。
タケルも同じように食べてみた。味は里芋そのもの。
ソースはヨモギと生姜とゴマをペースト状にして塩やハーブを混ぜていた。
里芋にかなり合う。
「エルフィニアでは、この芋をよく食べるのでしょうか?僕のいた世界でも食べられています、この芋は」
「里芋は、よく食べますよ。エルフの主食に近いかもしれません。
ヒューマンがパンを食べるようにエルフは、里芋を食べます。
他に黒パンやどんぐりパンもよく食べますが」
エリナが補足するように、「ここら辺は、ヒューマンも往き来するから、パンもよく食べる。
けれども森の真ん中に行くと、主食は断然、里芋になるんだよ。あとは、どんぐり。
里芋もどんぐりも森の中はよく採れるので」
「そうなんですか。里芋が主食なんですね。
元いた国では、里芋は煮物でよく食べましたよ!」
「うん、こっちでも蒸したり似たりして食べてるよ」
「タケルさんがいた国では、主食はどんなものを食べてたんですか?」
「コメというものです」
「コメ?どんな食材かしら?」
「麦のように穂で多数なっています。
採りたての際に殻を剥くと、黒い粒。玄米と言います。
表面を削ると白くなります。
それが白米。
普通はその白米を茹でて食べます。1粒1粒は小さいです。
宝嶺島では、コメは食べられているのでしょうか?」
「エルゼ、思い当たる?」
「う〜ん、何でしょう…。小さい粒、削ると白くなる…。茹でたり、蒸したりして食べる…」
しばし、沈黙が流れた。
タケルはこの世界で米を食べるのは難しいだろうと漠然と考えていた。
異世界ものコンテンツでは、主人公が現代日本から転移&転生した場合、米を食べるのに結構難儀しているからだ。
無職ニートが転生し魔法師として活躍する物語もそうだったし、不登校高校生が転移して、死に戻りの技を使うコンテンツもそうだった。
サラリーマンが死んでヌルヌルした下位の魔物に転生し大陸を制覇する話でも、世界大戦を生き抜いた高齢の剣術の達人が転生するストーリーでも確か直ぐには米は食べられなかったはずだ。
こちらの食事がいかに美味しくても、日本で生まれ育ったらやはり米のご飯が食べたくなる時もあろう。
自分がイタリアの片田舎にひと月ほど程滞在した事があったが、その際にやはり食べたくなったのは米飯だった。
特に体が弱っている時は。
イタリアでも大きな都市に行けば、中華料理や日本食は食べられただろうが、米飯への渇望を抱いて帰国したことを覚えている。
ここでエルゼやエリナが思いつかないなら、食事では、当分米飯は口にできないし、いつか寂しいことになると思われるのであった。




