エルフィニアと宝嶺島
エリナの説明によるとエルフィニアの領域は、エルフの森を囲む正方形に近い形をしている。
領域内の大半は結界で守られている上にエルフの民は魔法に秀でており、国全体の武力は強い。
しかし、エルフの森を護りその中で自足して国を営むという伝統的な方針があるため、領域を外へ拡大しようという意思は極めて弱い。
そのため、他国との大きな戦争は絶えてない。
東部は魔族の領域のデーモニアに接しているが、太古の誓約で魔族が侵入して来ることはない。
代わりに東部での凶悪な魔獣の頻繁な出現が、最大の脅威と言えた。
為に最も軍事力を割いているのはこの東部方面である。
ここで一旦エリナは沈黙した。その表情は、少し悲しげだった。
エリナの説明が続いた。
西側では大国の神聖ビザウム帝国と接しているが、帝国は王国、公国、領邦や自治都市からなる緩やか封建国家であり、エルフィニアとの隣接地域は、小領主の領邦と自治都市が混在し、それほどの脅威となっていない。
帝国領内のエルフやハーフエルフの処遇を巡って、小競り合いはあるが、大規模な戦闘には殆どならない。
軍事行動があるとしたら、エルフの保護や帝国やその領主から助力を求められた時である。
帝国の所領ではエルフの魔法師が多数活躍していたので、そのツテを頼って来るという。
西部方面は問題があれば短期間介入できるくらいの軍事力を置くという方針と言えよう。
南側の国境は大河の黒川があり、その向こうには大森林が広がり、大きな国もなく、侵略の脅威は西部以上に弱かった。
しかし、各国の和約で中立地帯となっている大森林が混乱したり、その地に住むエルフ系の住民が弾圧を受けたり、領有の野望を向ける勢力があれば、介入し得る軍事力を南部には置いていた。
そして、タケルが今いる北部である。
北に広がるアニミニアは、森林、疎林、草原が混在し、野生の動物が暮らす土地であり、奥には魔獣も生息している。
この地はどの国も領有せず、緩衝地帯の役割を果たし、大陸の北端の国々との衝突を防いでいる。
ヒューマンやハーフエルフや獣人の小さい集落はあるが結束したとしてもさほどの脅威もなく、エルフィニアに近い集落は庇護を受ける立場にあった。
他国の大軍も凶悪な魔獣の大群も久しく南下してきたことはない。
以上のような理由から、北部の国境は、他の三地域に比べて、武力の配置は手薄で、通常は正規の軍ではなく、警備局が警戒に当たっていたのであった。
そんなところに、突如の魔獣の大襲来である。
北部の防衛関係者が慌てるのは無理もない。
エルフィニアの民以外の冒険者たちにも片っ端から協力を依頼した。
とは言っても、東部の凶悪な魔獣の襲撃に比べれば、まだまだ対処しやすいレベルだが。
そんなことをエリナは、タケルに語った。
「分かりやすい説明、ありがとうございます。
エルフィニアには兵役義務みたいなものはあるんですか?
僕が元いた世界は、兵役の義務のある国とない国がありましたよ。
僕が住んでいたニホンという国は、兵役はなかったですが」
「兵役義務と言って良いのかは分からないが、一定年齢に達した普通のエルフは、男女ともに防衛訓練を受ける。
警戒レベルに応じて、召集に応じる義務がある」
「他の国はどうなってるのでしょうか?」
「まちまちだよ。
ビザウム帝国は一般的に戦闘は騎士の仕事だし、ドワーフ族の国は、兵役義務みたいなものが存在する。
各国でいろんな事情があるよ。
女性も戦闘に積極的に参加するのは、エルフィニアの特色かもしれないな〜」
各国まちまちか、なるほどそうだろうな。
タケルがいた現代日本の近隣もそうだ。
韓国、北朝鮮、台湾、ロシア、フィリピンは徴兵制。
日本は一種の志願兵制。
中国も徴兵をうたっているが事実上志願兵制と言えよう。
ただし、大学では軍事訓練が課せられ、軍事力の増強に力が入れられている。
女性にも徴兵があるのは、イスラエルが有名である。
エルフィニアはイスラエル型と考えても良いのかもしれない。
「タケル殿が暮らしていた国は、ニホンと言うのか?」
「そうですよ。太陽の元にある国という意味になるでしょうか。
ところで、今更なんですが、この大地というか、大陸というか、エルフィニアやビザウム帝国も含めて、ここは大きなまとまりでいうと何という土地なんでしょうか?」
「ホウレイ島だよ。古語では、モンス・テーサウルスとも言ってたかな」
「どんな意味なんでしょうか?」
「たしかどちらも宝の山という意味だったと思うよ」
「宝の山ですか…」
タケルは考える。
宝の山なら、宝嶺という漢字を当てたいところだ。
今後この字を当てて宝嶺島と呼ぼう、この土地を。
そう言えば、宝嶺、ホウレイ…。
母さんの実家の苗字と同じ音だな。
母さんの旧姓は、宝麗咲姫。
ただの偶然だと思うが…。
「魔獣の焼却が終わったようだ。別の場所に移動する」
グスタフの指示が響いた。
近くの炎は消えて闇が深まっている。
小隊のメンバー6人は次の地区へ移動するのであった。




