深夜の警備
「ふ~」
エルゼは額の汗をぬぐった。
治療・救護所は負傷者の人いきれがこもり、深夜に近いというのに、汗ばみそうだった。
東門のそばでタケルと邂逅した後、エルゼは治療・救護所へ入り、主に虐殺トカゲの毒でやられた者への対応を担当していた。
意識がある軽い症状の者には解毒魔法を使い、また事後のための薬の調合や処方にもあたっていたのである。
休憩から先ほど帰って来た男性の治療担当者が気になることを言っているのが耳に入った。
ここから遠くない屋台街で食事をとっていた際に、冒険者同士で小競り合いのようなものがあり、黒髪のヒューマンが相手を倒したというのである。
しかも、相手が振り下ろした剣を見事に両方の掌で挟みこんだのだという。
信じがたい技だったとその担当者はそばの同僚に話していた。
タケルさんね、きっと。
そう直感したエルゼがその話に耳をいっそう欹てると、
タケルらしきヒューマンが可愛いキツネ獣人と美しい冒険者と一緒だったという内容が、かなり気に懸かった。
タケルさん、何をしてるのかしら?
一緒に戦った人たち?
両手に花でモテモテの様子ね…。
エルゼはちょっぴり膨れたい気分になった。
明日になったら、タケルさんやエリナ姉さんに会いに行こう。
食事やお茶も一緒にしよう!
そう意気込んでいると、
「エルゼさん、さっきの薬の調合終わった?」
エルゼは慌てて、
「はい、終わりました。今持っていきます!」
と答えるのであった。
***
タケルは仮眠中に起こされるとグスタフ隊長が来ていたのだった。
謝るタケルにグスタフは笑って応え、夕方に戦った6人のチームで町の城壁の外の警備に当たった。
ところどころで焔が立っている。
城内に運び入れられなかった魔獣を燃やしているのであるが、屍肉を喰らう魔獣たちを寄せ付けない為だった。
3桁に及ぶ魔獣の骸が未だに町の外に放置されているという。
エルフやヒューマンなどの亡骸の回収をまず優先させたため魔獣の解体と回収が遅れているのである。
タケルたちの主な任務は、魔獣の再襲撃を警戒するというよりも、討伐された魔獣の解体や焼却を担当している魔法師たちを警護することであった。
時折、「キューン、キューン」という鳴き声が聞こえて来るが、屍肉喰らいの三つ目ハイエナの声らしい。
この魔獣は生きているエルフやヒューマンを襲うことは滅多にないが、食事中に近づく者は屍肉を奪いにきたと認識し激しく攻撃して来るらしい。
三つ目ハイエナが食事にありついていたら、今夜は追い払う必要はないという通達が出ていた。
再襲撃に備えて、人員の消耗を避けたいということだろう。
ただし、火炎は怖がって近づかないというから、遠くで声はするが姿は見えない。
「グスタフ大佐、北方へ送った斥候は何か、知らせてきているでしょうか?」
魔獣を燃やす炎を横目にエリナが隣に佇む上官に訊いた。
「今のところは何も。何せ魔獣征討が落ち着いた頃合いにようやく出発させたからのう」
「そうですか。あの種の魔獣が南下してきたということは、アニミニアで何かが起こってると考えた方がよさそうですね」
「かもしれなんな。より上位の魔獣の出現か、イレギュラー迷宮の発生か、それとも魔人級の仕業か。
だからこそ、まず様子見の斥候だ。調査隊はエリナ大尉にももちろん来てもらうことになる。警備局にはすでに打診してある」
「承知しました」
「おそらく、うちの臨時チームを含めて5~6隊で向かうと思う」
グスタフとエリナが話しているところにそばにいたタケルがやってきて、
「今、お話して大丈夫でしょうか?」
「ああ、構わない。今は炎を見ているだけの任務になっているからなぁ~」
グスタフが答えると、
「私はエルフィニアに数日前に来たばかりで事情があまり分かりません。
今回、一種の防衛の任務に参加しています。それでこの地域の防衛やエルフィニアの国防の事情というか、そういういうことを教えて頂けるでしょうか。
行動の目安になるかなと思います。もちろん、差支えない範囲で」
「そうか。それは殊勝な心掛けだ。
エリナ大尉、簡潔に話してやれ。君は説明がうまいからな」
「承知しました」
とエリナはタケルに向き直し、
「うん、最初は、大まかにエルフィニアの国防については話そう。そして次にここ北部の状況も」
炎が燃え盛る中、エリナがエルフィニアの国防や北部の状況を説明し始めた。




