家族と自分の気持ち
タケルが天幕に戻り担当者から太刀を受け取るとガルフの姿は見えず、半数くらいがいなくなっている。
次は自分たちの小隊が警備する番が来る。
この世界では正確な時刻の把握は期待できないようだが、夜から早朝にかけての巡回と聞いている。
今、小一時間仮眠をとっても大丈夫かもしれない。
ガルフが置いていった緑色光のランタンのおかげで、タケルは自分が割り当てられた区画に迷わず到った。
各自に敷布と毛布が用意されている。
タケルは両手で太刀を握り、横になって目をつぶった。
…さっきは屋台で大ごとになってしまったな。
剣を抜かせたのは失態だ。
戦わずして勝つのが上策なはず。
いや戦いも勝つことすらもなく、円満をもたらすのが最善だ。
タケルはこう思う反面、
太刀を持って行かなかったのはいい判断だった、
アスカやフォクラに何もなくて良かった、
とホッとしてる所もある。
アスカとフォクラが楽しく冒険の思い出を話していた情景を思い浮かべ、2人とも結構綺麗だなぁと思った。
特に狐型の耳はいいなぁとも。
思いを巡らしているうちに急に日本の家族のことが思い出された。
妹の舞姫は最も心配してるだろう。目の前で実兄が消え失せたのだから。
父も母も弟の篤も祖母も案じているに違いない。
多家良神社では、神隠しがあったと大騒ぎしてるのではないか。
何とか無事だということだけでも伝えられないだろうか。
これから自分はどうしていくか考えないといけない。
黒馬ペガサスが何かを知っているようだが、聖域へ行くといいと念話で告げていた。
自分がなぜこの地に召喚されたのか?
それを聖域で掴めるということなのだろうか?
どの道を選ぶにしても、この世界のことをもっと知り、生活できるようになることが第一優先だ。
この町の警備の任務が終わったら、エレーヌさん一家に生活について相談してみるか…。
そして、タケルは自分の本当の気持ちらしきものにはたと出会う。
自分は今日目覚めてから、元の世界のことを余り思わなかった。
本来なら、ゴブリンと戦った時点で帰りたいと思うはずだ。
あの時も今日も死は間近にあった。
今、自分は本当に元の世界に帰りたいのか?
さほどそう思っていないのではないか?
日本で漠然と過ごしていた日々。
それなりに楽しいこともあるにはあった。
「タケルきゅん」と自分を呼んで快活に笑ってくれた娘とのひと時があったり…。
しかし、どこかに空虚感を抱えて過ごしていた。
命が滾ることが無くなっていた…。
この世界に来て、死を隣り合わせにして戦って、自分は感じてしまったのだ、
生きている実感を。
町に害なす魔獣を叩き切った時、充実感を覚えたのはなぜだろう?
誰かを守ることに強い憧れが自分にはきっとあるのではないか。
強さがものをいうこの異世界。
そんな場所で、
自分が培ってきた力を試したい。
強さを磨きたい。
なすべき使命があるなら、それを果たしてみせたい。
そんなことを考えているうちに級に疲労感に襲われ、タケルはうたた寝に入ったのであった。




