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タケルの妙技

場は静かだった。

フォクラは両目を開けてみた。


タケルが両手の掌で挟み込んでいた、

振り下ろされたはずの剣を!


「馬鹿な、そんな…」


剣を持った男がつぶやくと同時にタケルの鋭い膝蹴りが男のみぞおちを捉え、膝を落としてうめいた。


「うぐぅぐ…」


タケルは挟み取った刀の(つか)を握った。


「すげー」


「なんだあの技は!」


「あの人、虐殺トカゲを倒したタケルというヒューマンじゃないかしら? やるわねぇ~」


周りで見ていた者たちが称賛混じりの声をあげていた。


「タケルさん、ありがとう」


フォクラが寄り添っていう。


「事を荒立てることになってすいません。フォクラさんの思いにそぐわず…」


「そんなことないですよ!」


「最初に床に転がした時に当て身でも入れて置いたら良かったのに。

タケルは、甘いわね~」


「うん、僕もそう思うよ。考えが少し甘かった」


「まあ、あたし、何かあってもタケルが勝つとは思ったけど。

分かればいいわ、分かれば」


こう言葉を交わしていると、先ほどまでそばで飲んでいた2人連れのヒューマン男性が近づいてきて、


「俺ら、トーマスのちょっとした知り合いなんだ。

トーマスのことは、許してやってくれ」


と話しかけてきた。

もう1人が、


「あいつは今日、相棒が大怪我して、感情的になってたんだと思う」


と言って、申し訳ない表情で、


「そこの魔術師さんには悪かったよ。あいつは獣人が好きでどうしようもないんだ…。俺たちからも注意する。

また、にいさんにも大変だったな。あいつは酒を飲むと喧嘩っ早いとこあるが、まさか剣を抜くとは」


「あの人、そうでしたか、仲間が大怪我を…。

僕も怒らせないで止める工夫ができず、悔やむところもあります。

フォクラさん、今回のことはこの人たちに任せていいかな?」


「はい、いいですよ」


「では、この剣をあなたたちからトーマスさんに渡してあげてください」


タケルが抜き身の刀剣を渡す。


「分かった。トーマスによく言い含めておくよ。ありがとう。

それにしてもさっきの技、すごいなぁ!

俺も剣術やってるけど、あんなの初めてみたよ。

しかも魔法なしだろう。

何という技だい?」


「え〜と、真剣白刃取りと言います」


「真剣白刃取りか、そうか、覚えておくよ」


2人の男がトーマスという男を両側から抱えて、その場から去った。


真剣白刃取り、剣術柳生やぎゅう新陰しんかげ流の妙技の極致。


淵源は諸説あるが、下ろされる相手の刃を両掌に挟み受けて斬撃を制する防御法である。

タケルの修めた神刀しんとう一乗いちじょう流の体術にも取り入れられている。


この技の練習は居合術の練習の際にしていたが、こんなところで使うことになるとは思いも寄らなかった。


そう思うとタケルは、アスカとフォクラを向いて、


「時間が来たから、そろそろお開きにしようか、お茶会」


「そうね~」


とアスカもフォクラも同意。


タケルは2人を宿の玄関まで送り、


「アスカ、支度金もらったら、またここに来るよ。酒をおごりに、約束通り。

1週間はいるんだな?」


「いるわよ。タケル、忘れないで。

フォクラも連れて飲みに行くわよ。よろしく!

今夜はいろいろあったけど、楽しかったわ」


「同感! 私も楽しかった」


「それとフォクラさん」


「何?」


「今日のようなことがあったからといって、屋台でフードを被る必要はないですよ。

少なくとも僕といる時は」


「えっ」


「何があっても、必ずフォクラさんを護ります。

フード被って食事するなんて窮屈です。

キュートな両耳も綺麗な髪も隠す必要はないですよ!

とはいえ、フォクラさんが本気で魔法を使えば僕の出番はないのですが」


2人には見えないが、ローブの中では、フォクラの尾が立っていた。

これはこの種族の嬉しい時のサインだ。


「そうよ、フォクラが魔法を使ったら、あんたの出番なんか、全く無いわよ!

あたしもフードは被らなくていいと思うわ。

それとフォクラだけ護って、あたしのことは護る気、ないの?」


「もちろん、アスカも何かあったら護るよ〜。

必要ないけど、きっと」


「それなら、護ってもらうわよ。

(ゴールド)の冒険者にわざと喧嘩売ろうかしら」


「おいおい」


「アハハハ」


哄笑が生まれた。


「お言葉、ありがと!

じゃ、タケルさんもいい夜を」


「うん、2人ともおやすみなさい」


タケルは踵を返して天幕へ向かった。


***

「アスカ、タケルさんって凄い人だね」


宿屋の2人用の部屋でフォクラがハーブティーを飲みながらアスカに告げる。


「ん、ええ、まあ。あたしを救ったぐらいの男だから凄いのも当然だわ!」


「アスカは、あの男が剣を抜いても全く心配してなかったけど、タケルさんを信頼してたんだね」


「そうなるかな〜」


「アスカ、タケルさんのこと、好きになってもいい?」


「え? なんで急に。べ、べつにいいんじゃない。あたしに訊く必要ないわよ…」


アスカの表情が俄かに曇った。


「冗談やよ!冗談!」


「冗談? そうよね〜。冗談だとあたしも思ったわ。ハハハ…」


(アスカは分かりやすいよ~。

もしかしたら、冗談ちゃうかも。

でも、今はこの気持ちを伏せておくよ。

アスカは大切な友達やから…。

でも私がもしもタケルさんのこと、いっぱい好きになったら、真剣勝負やよ、アスカ)


フォクラは親友の顔を眺めた。

アスカの表情は照れくさそうに見えた。


フォクラは視線を開いている窓に移した。


夜空には満月に近い月が輝いている。


(セミロングの髪と両耳を褒められたのは嬉しいかったな。)


「じゃあ、寝ましょうか」


開き扉の窓を閉めるフォクラであった。

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