アスカとフォクラの話
2人は次のようなことを話してくれた。
アスカはヒューマニア南部の地方貴族の娘であり、神聖ビザウム帝国にいくつか存在する武芸魔法学校の一つを卒業した。
その後は慣例にしたがって修行の旅に出て、最初はヴァロア王国に滞在し、南部を中心に巡ったという。
また、フォクラは北部の海岸地方で生まれ育ち、地元の高名な魔法師から魔法を学んだ。
上級魔法を使えるようになると師から冒険の旅に出されたのであった。
そんな2人が出会ったのが、中央部の港町ノイ。
この海沿いの大都市は冒険者が各地から集まる町であり、依頼内容も多岐にわたり、上位の魔法師や戦士から教えを受けることもできる。
アスカもフォクラも冒険者の仕事を引き受けながらこの町に滞在し、さらにスキルを磨いていたのであった。
そんなある日、魔獣討伐の臨時パーティーで一緒になる。
初めは誤解もあって険悪な仲だったらしいが、その後何度か依頼を共にするうちに誤解もとけて、意気投合し、パーティーは変えながらも同行の旅するようになったのである。
「ヴァロア王国は食べ物がおいしかった、また、食べたいわ」
とアスカが言えば、
「そうそう、お菓子がメチャおいしかったわ~」
とフォクラが反応する。
「アスカ、海岸の半魚人を覚えてるん? 倒すの大変だったねんな~。攻撃すると海に逃げちゃうから」
「フォクラの幻術魔法で最後は落とし穴に落として、黒焦げにしたわね」
2人の異性は、麦珈琲をお代わりしながら、そんな思い出話に話を咲かせていた。
フォクラはアスカ相手で気安いのだろうか、言葉遣いにガルフやミーニャ風の言い方が少し混ざっていた。
そんな楽し気な2人を眺めて、冒険の旅っていうのも面白そうだなぁ。
この世界をいろいろ回ってみるのもいいか。
タケルがそう思っていると、
中年のヒューマンだろうか、剣士らしい少しゴツイ体の冒険者が、フォクラの後ろに近寄ってきた。
「おねえちゃんのお耳、可愛いなぁ~」
と言って、フォクラの狐耳を触ろうとした。
フォクラは嫌がってその指をかわす。
「あんた、何、する気?」
フォクラの横に座るアスカが男を鋭い目でにらむ。
「おわっ、怖いなぁ。少しぐらいいいじゃねーか!今日の俺様は活躍したんだぜ。このトーマス様が!」
男は少し酔っているようだった。
首に冒険者ギルド発行の認識票を提げていて、カッパー(準上級)だった。
「アスカ、ここはやりすごそう。酔ってるだけだから」
フォクラはヒューマンに耳も触られそうになったことはこれまでにも何度もある。
慣れてはいるが、やはり嫌なことではある。
けれども、アスカもフォクラも男と同じ等級であり、もしもここでやりあったら、大げさな戦闘になり兼ねない。
フォクラは事を荒立てないでおこうと考えたのである。
そんなフォクラの気持ちを察して、アスカは男を問答無用で攻撃する気持ちを抑えた。
アスカの態度を見て、男が再びフォクラに近寄ろうとする。
フォクラは立ち上がって男から離れた。
「待てよ、こら!」
男も追いかけようとすると、別の若い男が割り込んできた。
タケルである。
アスカが立ち上がり小声で、
「あんたに任せるわ」
と告げて座りなおすと、
「うん、任せて」
と応え、タケルがフォクラを背中にかばう。
「この人が嫌がってますよ。ここらへんでやめましょうよ~」
丁寧な口調で男に言った。
「あ?なんだ、お前。ナイト様を気取ってるのか?
「せっかくの料理やお酒がまずくなってしまいますよ~」
穏やかな口調に努めた。
「俺様はその狐耳の娘に用があるんだ」
「彼女はあなたに用はありませんよ~」
「何だと、この野郎。口応えしやがって。
剣もささずに弱そうだな。おい!」
と言って、急に殴りかかってきた。
男は冒険者だけあって、武術を嗜んでいるようであったが、タケルは余裕でその拳をかわした。
「喧嘩はやめましょう」
「うるせい!」
男がまた殴り掛かって来たので、タケルは攻撃を回避するとともに男の右手の手首を取って巧みに地面へ転がす。
「くそ~」
男はすぐに立ち上がってタケルに憎しみの目を向けた。
「手加減してやってるのに。もう許さねえ!」
こう叫んで、腰の剣を抜いたのである。
少し反りのある刀身だった。
周りは騒めいた。
「アスカ、タケルさんを助けようよ~」
「その必要はないわ、タケルは任せろって言ったんだから。フォクラ、何もしないで」
フォクラの心配をよそにアスカは今も椅子に座って平気な顔をしていた。
タケルは煌く白刃を前にしても顔色一つ変えず、
「言っても無駄みたいですね。切りかかりたいならどうぞ」
という。
「生意気だ。死ねや!」
男は激昂して刀剣を振り下ろす。
フォクラはその瞬間、思わず目を閉じたのであった。




