剣術と冒険者の話
天幕は南門のそばに五つほど設けられていた。
一つ一つはそれほど大きくない。
宿営は男女が分けられていた。
小隊メンバー6人中、男性はグスタフとタケルのみ。
隊長のグスタフは正規の軍人であり、別の場所に宿泊するとのことだった。
馬を繋いだタケルが天幕の一つに案内されると、30人くらいが敷布の上で座ったり寝転がってして寛いでいた。
タケルは担当者から指示された場所に歩みを進め目の合う者たちに会釈をした。
地域柄、エルフやハーフエルフが多いが、ヒューマンや獣人の姿も見える。
中は張り詰めた雰囲気はない。
征討が一段落しホッとしているのだろう。
しかし、数人、涙する姿も目に入った。
知人に何かがあったのだろう。
来る途中白布を掛けられた亡骸をたびたび馬上から目にしていた。
タケルは奥の方で見慣れた姿を見つけた。
狼顔の獣人ガルフである。
ちょうどタケルが指定された場所のそばで、剣の手入れをしていた。
ランタンのようなものが置かれ、あたりを緑色の光でぼんやり照らしている。先ほどガルフから聞いた魔緑石を使っているのだろうか。
「ガルフさん、また会いましたね!」
「お、タケルのにいちゃんやないか」
「剣の手入れをされているんですね」
ガルフはサーベルの刃を布で拭っている。
「そうや。しっかりしとかんといざという時、困るで。
にいちゃんもしっかり手入れせいや~。
まあ魔力道具ならその必要もあらへんか」
実はガルフの言う通りだった。
虐殺トカゲを切り伏せ、いったんタケルは太刀を鞘に収めたのであるが、少し落ち着いた際に刀刃を白布で拭おうと太刀を鞘から抜いたのである。
すると研ぎ終えたばかりのように煌き、血糊もどこかに消えてしまっていたのだった。
警備局で魔力道具と聞いていたから納得していたのであるが、ガルフが手入れをする姿を見て、鞘に入れただけで、白刃が研ぎ澄まされたように戻るというのは、かなり有り難いことだと思った。
「そういやぁ、にいちゃんはホクトの剣だなぁ」
「ホクトの剣って、どういうことですか?」
「刀と剣術がそっちの系統ってゆうことや」
「興味深いですね!
そのホクトの剣など、剣術の流派について教えてくれませんか?」
ガルフはタケルの好奇心に接して、親切に説明してくれた。
タケルたちがいるこの大陸の剣術には大きく二つの流れがあるという。
一つが北方のホクトの剣であり、もう一つが南方のナントの剣である。
前者は主に反りのある片刃の刀を使うという斬撃中心の剣術。
後者は主に両刃の直刀や尖った剣を中心とする、刺突を重視した剣術。
話を聞くにホクトの剣は日本の剣道に近く、ナントの剣は西洋由来の剣術、例えばフェンシングに似ているのだろうとタケルは思う。
そして、タケルは中学生の頃よく読んだ格闘技マンガの名作にあやかって、ホクトには「北斗」、ナントには「南斗」という漢字を用いたいと思った。
ガルフは北部の出身ではじめ北斗の剣を修めたそうだが、冒険者として南部にも久しく暮らしたことがあり、その際に南斗の剣も学んだのだという。
それで両刃の直剣や槍も結構使えるが、斬撃にも刺突にも向いた軽量の湾刀、つまりタケルのいた世界で言うところのサーベルは、ガルフ自身にもっともしっくりくる武器だという。
加えて、サーベルは騎兵が身につけただけあって、馬上での戦いに向いている。馬術が得意なガルフにはうってつけというわけだった。
また、剣士にも格付けがあり、下から初級、中級、上級、仙級、聖級、神位、天位と上がり、上級以上の戦士は接近戦である程度の魔物を倒す力があるので、重宝されるという。
なお、他の武術も同じ等級を用いる。
神位や天位はこの大陸で数えるほどしかいないということだった。
ちなみにガルフは剣術が上級、槍術が中級だ。
そんな話を聞いているとタケルの後ろから声がし、
「ガルフさんは、冒険者としてはもっとすごいよ」
と話に入ってきた。
振り向くと男性ハーフエルフだった。
「ガルフさんは、冒険者ランクが銀なんだよ。つまり、かなり強い」
イワンと名乗るそのハーフエルフによると、冒険者のランクは下から、石、鉛、真鍮、青銅、銅、銀、金だという。
ガルフは冒険者として一流とされる銀のランクであり、戦闘や魔獣討伐のベテランだということだった。
ホヤンスク周辺の冒険者で最も強いのだという。
「そんなことあらへんで。失敗も多いで」
と照れくさそうにガルフは笑った。
「タケル隊員、あの、知り合いの人が来たようですよ」
天幕の担当者がタケルのもとに来ていた。
「ガルフさん、お話の途中ですいません。ちょっと行ってきます」
誰だろう…。
タケルは担当者と一緒に天幕の出入り口に向かった。
冒険者のランクを下から
石
鉛
真鍮
青銅
銅
銀
金
7段階に変更しました。




