魔緑石
「ガルフさん、あの折はありがとうございました」
タケルが立ち上がった。
狼顔の獣人はゴブリンとの戦いの日と同じく、冒険者のいでたちにサーベルを下げていた。
「礼には及ばんで。元気になってよかったわ」
ガルフは道で事切れている魔獣に流眄を与えて、
「それにしても、このトカゲの化け物を倒したんやってな?
にいちゃん、気張ったって、さっき聞いたで」
「チームの連携で何とか討ち取りましたよ」
「この横っ腹の傷、にいちゃんが切り裂いたんやなぁ〜」
「運よく、なんとか」
「硬い皮やけど、よく斬れたわぁ」
2人が虐殺トカゲを見ていると、布製の腕章らしいものを巻いた武人数人が死んだ魔獣から角や牙を採取していた。
この後、骸を焼いて、残った魔緑石を持ち運ぶらしい。
角や牙や魔緑石は、今回の活躍に応じた恩賞として後で一括して分配するということだった。
魔獣の死骸を早めに焼くのは、死骸をあさる魔獣を惹きつけないためと万一のアンデット化(死霊化)を防ぐ処置という。
「ところで、にいちゃん、警備局でボブゴブリンの魔緑石、受け取ったん?」
「いえ、まだです」
「そうなんか。
今回の襲撃で慌ただしうしとったから、事務方も忘れてたんやろなぁ。
これならエリナ殿に頼んどいたらよかったで」
「あの、エリナさんやエルゼさんから聞いてると思うのですが、僕はこの世界のことが余り分かりません。
魔緑石って、何でしょうか?」
「ああ、そうやったなぁ、にいちゃん、マレビトらしいいんやなぁ。魔緑石いうんは〜」
獣人ガルフの話によれば、魔緑石とは、魔素の純度が極めて高く、魔獣は体内に必ず持っている。
強いものや大きいものほど魔緑石は大きくなる。
魔素とは、魔法をなすのに必要なエレメントで、この大小で魔法の規模や内容が決まる。
例えば、魔法師は自ら作り出したり、操れる魔素量が多い。
仮に魔法師のように自ら魔素を作り出せなくても、魔緑石などの力を借りれば、魔法を発動させることは可能だ。
そのため魔素の純度が高い魔緑石は重宝され、換金対象にもなり、一種の通貨としても通用している。
魔素に似た概念にマナというものがあるが、これはエルフやヒューマンなどが身体に持つ魔法力のようなものと言え、マナによっても魔法の起動は可能である。
マナと魔素は通じ合う面もあるが、エルフやヒューマンにとって、大量の魔素はときに有害であるが、マナは大量でも無害であるという点が異なる。召喚できる精霊の種類も違う。
なお、魔緑石での魔法の発動は、どの種族にもほとんど害はない。
ちなみにガルフは、種族特有の魔法以外は、魔緑石等の力を借りないと発動できないということだった。
タケルが、そんな説明を受けているときに前にやってきたのが小柄な猫の獣人ミニャだった。
「ガルフ、久しぶりやん!」
「げっ!」
ガルフの狼狽がタケルに伝わった。




