征討が終わり
虐殺トカゲは、魔弾で狙われている右側の傷口に意識を取られているようだった。
アスカとミーニャは建物伝いに左側から近づく。
断続的に吐き出す毒の攻撃を見ながら、攻め時を慮る。
毒炎が前方の魔術師に吐き出されると、
今だ!
アスカが左側面から駆け寄って、開いた口に槍を入れる。
「グサッ」
手応えはあった。
魔獣は毒の吐き出しをやめて、アスカに食いつこうとするが、彼女はすぐに離れる。
すると獣人ミーニャが、死角から、左目を薙刀で抉る。
「ギュギャー」
魔獣は尻尾の鞭や前足での反撃を行うが、2人は回避して、コンビネーションの攻撃を繰り返し行う。
魔弾による右側面の傷口への攻撃とあい合わさって、徐々に魔獣の命を削り取られていた。
その間にタケルの長刀が右後ろ足首を切り離したし、魔獣は呻き声を出していた。
華やかな戦い方ではない。
少しずつ敵の命を削ぐ、地味な戦闘だ。
しかし、夕闇の中、決着の時は近づいていた。
「タケル隊員、右からとどめを!尻尾は俺がなんとかする」
というグスタフの指示に応じて、タケルは右側面に姿を現し、首まで入っていた裂傷に太刀を深く入れて、
「そりゃー」
後ろへ切り裂いていった。
鞭のような虐殺トカゲの尻尾をグスタフががっつり抱えていた。
弱ってるとは言え、怪力にしかなせぬ行動だ。
タケルがそんなグスタフのそばに達した時、
「ギュアーン」
という最後の叫びをあげて、微動だにしなかったのである。
「やったニャー!」
ミーニャが最初に声をあげた。
グスタフも魔力感知上も、事切れたのを確認し抱えていた尾を離した。
「虐殺トカゲを倒したぞー!」
戦いを遠目に見ていた冒険者だろう。
それが次々伝わり続け、そこかしこで歓声が聞こえる。
タケルは右手に持っていた太刀を鞘にしまった。
服は青い血しぶきで染まっている。
グスタフもアスカもミーニャもエリナも他の魔法師もタケルの元に集まった。
「タケル、よくやったわ」
「すごいニャー、タケル隊員」
と口々にタケルを称えると、
「タケル隊員ありがとう。身を呈した献身に感謝する」
というグスタフの労いの言葉。
「いえ、チームで勝ち取った勝利ですよ! 誰が欠けても魔物を倒せなかったです。みなさん、お疲れ様でした」
「その通りだな。エリナ大尉、ミーニャ隊員、シロン隊員、リニャーニ隊員、アスカ殿、諸君たちの奮闘に感謝する」
メンバーたちの表情には安堵の色が浮かんでいた。しかし、まだ魔物の脅威はあり得る。
油断は禁物だと分かっていた。
馬に乗った武人が走り寄って来て、
「グスタフ大佐、町に入った魔獣たちは、もうすぐ駆逐できます。門外にも魔獣はいません」
「そうか、では、負傷者を運ぼうか?」
「虐殺トカゲの毒でやられた者も多いので、解毒のできる魔法師や薬師、看護者を町に呼び入れます」
タケルはふ〜と息を吐いた。
戦いは終わった。
そう思うと少し眩暈に襲われた。
足取りのふらつきを見て、エリナが、
「タケル殿は毒を少し吸ってしまったな。解毒処置を受けるといい」
「そうだニャー」
「タケル隊員は、解毒処置を待て。座ってよし。体がふらつく者は他にいないか?」
とグスタフが問うとどうやら毒でやられたのは、タケルだけのようだった。
チームの魔術師やエリナは、中級程度の治癒魔法はできるが、解毒は難しいらしい。
タケルは座って解毒班が来るのを待つことにした。
水系魔法を操るシロンが、隊員たちの服を一瞬で洗浄し、グスタフが風魔法でさっと乾かした。
倒された虐殺トカゲの脇を通る者たちは、
「こんな化け物を倒したのか!」
「誰が倒したんだ?」
そんなことを口々に言って移動していく。
ペガサスをはじめ、隊員たちの馬はすでに主人の元に戻っていた。
魔獣の死を察知したのであろう。
ペガサスは、鼻先をタケルに寄せた。
タケルは優しくペガサスを撫でた。
そんなとき、荷馬車が近づいてきた。
薄暗がりで人の様子は判別しづらかった。
「タケルさん?」
異世界で最初に聞いた優しげな声。
荷台から声をかけたのはエルゼだった。
本日は初めて1日2話をアップしました。




