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虐殺トカゲ

「アスカ、向きを変えて僕にしがみついて!かなり揺れる」


「分かったわ」


槍を肩にかけ、馬の背に後ろ向きに座っていたアスカは、器用に向き直して、タケルの胸に手を回した。


タケルは馬の速度を上げる。


アスカがしがみ付くと、自然、胸の膨らみがタケルの背中で圧迫された。

アスカはやはり異性であった。


うっ!


タケルは急に気持ちの高ぶりを覚えた。ちょっぴり嬉しかった。


死地へ赴くかもしれないというのに、自分は何を意識してるんだ。


こう思いながらも、


剣術は平常心、あるがままが大切だ。

うん、戦いだけに気持ちが張り詰めないというのも実は悪くない。

案外、こんなこと思うのもいいのかもな(笑)。


と言い聞かせたりもした。


東門についてみると頑丈で大きな門扉は破られ、先ほど見た略奪(プレイダー)トカゲが数匹侵入していた。

それを必死に、手負いの武人たちが攻撃していた。


「貴方たちは、殺戮(マッサカー)トカゲを討って下さい。

並みの冒険者では全く歯が立ちません。このままだと町が…」


泣き声混じりだった。


「分かった。奴はどこだ?」


「この道をまっすぐに進んでいるはずです。毒を撒き散らしながら」


と言って、冒険者の1人は倒れて息絶えた。


殺戮トカゲを追う途中、獣人やヒューマン、エルフ、ハーフエルフたちの新しい亡骸が至る所に見えた。外傷がないのも見受けられる。


「殺戮トカゲは、体はデカイし、皮膚はかなり硬いし。そして、毒を吐き散らすわ!」


というアスカは、既にマスクのようなアイテムで口と鼻を覆っていた。


すぐに殺戮トカゲの後ろ姿が見えた。


タケルの目には、太古の恐竜のように映る。

トカゲというには大きすぎるのだ。


虐殺トカゲは、タケルたちが先ほど討伐した略奪トカゲの上位種であり、略奪トカゲの3倍ほどの体躯を持つ。

角は3本あり、皮膚は固く、魔力耐性も高い。

爪は鋭く、尾でも相手を攻撃できる上に毒を吐きちらす。


小さな町なら簡単に壊滅できる恐るべき魔獣である。


武人たちが前方から、魔弾のようなものを放っているが意に介せず、蹂躙していく。


時折、青白い炎のようなものを吐き散らすと、倒れる者が出ていた。


「お前らあの青白い炎に気をつけろ。猛毒だ。これから、攻撃に移る。魔法師2人は、障壁と後方からの攻撃を頼む。

エリナ大尉も後方からの攻撃を。他は俺に続け」


こう言ってグスタフは、地を這う魔物に馬を近づけると急に止まり、


「森の精霊よ、風を起こし給え!」


と唱えるや、馬上から飛び去り、そのまま殺戮トカゲに背中に落ちていき、膝蹴りを入れる。


が、横に弾き返された。


やはり、効かないか…。


殺戮トカゲは振り向き見せず、前方の魔力障壁を破って進んでいく。


グスタフは風魔法で馬上に戻ると、魔法師による魔力攻撃が始まった。


魔法師2人はそれぞれ土系魔法と水系魔法が得意のようだった。

土塊や水を固めた魔弾を一斉に連射した。


魔獣の尾や背中に降り注ぐ攻撃。

だが、効いてる様子は無かった。


エリナが矢を放つも体には刺さらず、外皮を傷つける程度だった。

そこで、エリナは目のあたりに狙いを定めて射る。

少し目後ろを傷つけたようで、魔獣は反応し、振り向いて、体を逆方向に変える。


「ギャオー」


という叫びとともに青白い炎を口から吐き出した。


魔法師が横長の土塊の障壁を作り、タケルたちを含むメンバーたちへの毒の攻撃を防ぐ。


エリナは引き続き、虐殺トカゲの目を狙うが、意図的に瞼を閉じられると、全く矢で傷つけることができなかった。


ある程度の知力もある魔獣のようだ。


タケルはペガサスに毒を自分で回避するようにと告げ、アスカとともに下馬して障壁に身を寄せていた。


魔獣は毒を吐きながら、徐ろに近づいてくる。


「ゴォー」


青白い毒の炎が障壁にぶつかる音が唸る。


土壁の前方にはもう1枚の障壁も作って二重で毒の攻撃を防いでいた。

しかし、もうすぐこれも殺戮の魔物によって直接破壊されるだろう。


これじゃ近づけないな。魔弾も矢も効かずか。

俺とは相性が悪い。

刀も槍もあの硬い皮には通じないかもしれない…。

奴を町に閉じ込めて、聖級の魔法師や戦士の救援を待つか?

しかし、犠牲者がかなり増える…。


こう思案するグスタフは、タケルと同じように馬を放し、障壁の内側にいた。


「隊長、相談があります」


そばのタケルが話しかける。


「あのトカゲの化け物、腹の下も硬いのでしょうか?」


「いや、そんなに固くないはずだ。爬虫類の魔獣は腹部が弱点のものが多いぞ」


「だったら、土魔法で穴をすぐに掘ることはできますか。僕がそこに潜んで、あれが来たら腹から斬ってみます」


「何?」


グスタフは驚いた。


そんなやり方もあったか。


その場にいたアスカも猫の獣人も魔法師2人も驚いていた。


「あんた本気?」


とアスカが言葉をかけると、


「本気だ」


と答えるタケル。


「かなり危険だぞ。任せていいのか?」


タケルは頷き、


「このままじゃ、犠牲が増えるばかりです。僕に任せてください」


「分かった」


グスタフは、魔法師の1人に、


「今すぐ、後ろ馬身三つ分のところに棺桶の大きさの穴を作ってくれ。タケルを潜ませる。穴は土塊で蓋も。

エリナ大尉はと穴の間に氷の障壁を張ってくれ」


グスタフは他のメンバーを見やり、


「準備出来次第、奴をこっちにギリギリまで引きつける。よろしく頼む」


「了解!」


という声が重なる。


魔法師は詠唱の後、的確に棺桶大の穴を穿った。

穴が虐殺トカゲから分かりづらいようにエリナも氷の障壁をそのそばに張った。


グスタフはタケルの目を見て、


「タケル隊員、頼んだぞ」


「もちろん!」


と言って、抜き身の刀身を抱いて、タケルは穴の中に仰向けになった。

そこに即席で土塊から作った板状のものがはめ込まれ薄く土が被せられた。

見た目は地面そのもの、違和感はない。


虐殺トカゲは、魔弾や矢の攻撃に怒り、止まらずにこちらに向かってくる。


メンバーたちは、土の障壁にできる張り付き、たまに横から姿を見せて、魔獣の目を引きつける。


土中のタケルは、息苦しさと恐怖を覚えていた。

先程は頼り甲斐のあるような受け答えをしていたが、やはりタケルも怖い。


しかし、タケルには恐怖に押しつぶされないメンタルの強さも持っていた。

これは剣術や剣道の修練の賜物だろう。


タケルは恐怖を打ち消すために、先ほど背中で感じ取っていたアスカの異性独特の膨らみゆえの感触をしいて思い出そうとしていた。

気持ちを身体から震え立たせようとしていた。

そういうところも強さの表れかもしれない。


魔獣が土塊の障壁に迫る刹那、メンバーたちは後ろに各自逃げた。


虐殺トカゲが土塊の壁を頭でかち割り、そして、


「パキパキ」


氷の障壁を破壊した音が、土中のタケルの耳に聞こえた。


数メートルそばに魔獣が来ている。

タケルは暗闇の中、両の手で鞘を握りしめた。

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