宝嶺島の自然科学
宝嶺島において、自然科学の研究は現代の地球の水準から見ると大きく見劣りがする。
その理由として、魔法が発達しているため、自然科学の研究に力が注がれていなかったことが挙げられよう。
特に生来魔法師の素質を持つものが多い、エルフや天使族、竜人族、そしてドワーフ族が多い国々は魔法重視の傾向が強い。
しかし、ヒューマンの国々では、生来魔法を使える者は少ないので、魔法や魔緑石に頼らず、自然科学の応用で利便性を高めようという意欲は強かった。
そんな状況の宝嶺島にあって、自然科学の中心となっていたのが、南方のヴァロワ王国と北方のブリツェン王国であった。
他に強国のズートリッヒ、港湾自治都市のノイやリャオスなどでも自然科学に見るべきものがあったが、先に挙げた二つの国が一歩抜き出ていた。
ヴァロワ王国は、フランス革命時代の転生者ロベスティーヌの功績が大きかった。
特に化学で秀でていた。
元素が物質を構成するという自然の理を研究者たちが理解し、鉄、銅、カリウム、カルシウム、ナトリウムなどいくつかの化学元素に到達していた。
その応用として、溶剤や肥料などを作る化学工業も生またのだった。
一方、ブリツェン王国はクロイツ教新派を奉じ、創造主の意思を体現するとされる、ヒューマンの力で世界を理解しようという気概にあふれていた。
物理学が盛んで、電気の解明にも踏み込みつつあった。
魔力なしの電灯を作ったのもブリツェンが最初である。
もちろん、両国ともに既存の魔法と自然科学を組み合わせて効果的に活用していた。
先ほどブリツェンの魔法師ギュントが見せた雷撃魔法もその一つである。
魔杖の上辺に埋め込まれた魔緑石に高圧の電力を蓄え、魔法で漏れでないように制御し、絶縁体で杖を覆っている。
持ち運びが容易で、電気への知識を持つ、あるレベル以上の魔法師が雷撃を使えるようにしているのであった。
雷撃、この魔法は旧来かなり高度な魔法とされていた。
風魔法と水魔法を同時に使いこなせる魔法師だけが繰り出せる珍しい攻撃であった。
しかし、ブリツェン王国の科学技術は、その魔法を自然科学の応用で易化させたのであった。
この雷撃杖というマジックアイテムを使いこなせる魔術師はブリツェンでも少ないが、雷撃が他国にとって現在大きな脅威にもなっていたのである。
追っ手のリーダー格が、馬上から、絶命したシュワルツの亡骸を間近で確認すると、
「早く追いかけて、ヨハン卿を捕らえるぞ」
と勢いよく馬を駆けさせた。




