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海戦のエピソードを思い出し

朝鮮半島と東アジアの未来をめぐり、日本と清が激突した日清戦争。


明治27年(1894)、9月17日の午前、日本艦隊は黄海にて清国の艦隊を発見した。のちにいう黄海海戦が始まろうとしていた。


当時の日本人にとって、清国はなお東アジアの巨大な強国であり、戦おうとする艦隊は数でも装備でも日本にまさり、乗組員の中には恐怖と不安も渦巻いていた。


第一遊撃隊三番艦の「秋津洲(あきつしま)」では、戦いの前に昼食が出されたが、不安と緊張で食事を残す者が大半であったという。


気持ちで負けていた。


そこで艦長の上村(かみむら)彦之丞(ひこのじょう)は、乗組員全員を甲板に集め、このようなことを訓示したのである。


「お前らの中には戦いを怖がっている者がいるが、そんな者に戦ってもらいたくない。

こんな場合、肝が座ってる者は、睾丸がだらりと垂れていて、怖がっている者は縮み上がるそうだ。

よって今から点検する。


総員、ズボンを脱げ!

睾丸を出せっ!!」


一同、大爆笑。


愉快にズボンを下ろし、不安は一掃され、乗組員たちはいつものように元気を取り戻したという。


タケルがこのエピソードを聞いたのは、高校の世界史教師、獅子谷(ししたに)(みさお)からであった。


獅子谷は男子数人がいた際にこの戯れ言を話したのだが、次の言葉を加えたことを今も覚えている。


「お前ら、男の強さってこういうところなんだよ。

ズボン下ろして、笑い飛ばすことができる、こういうところだ。

艦長も部下たちも面白いなぁ〜。

銭湯行って、タオルで隠すようなつまんねー真似はすんなよ〜」


獅子谷は世界史の授業では両性平等を語り、教科書は男性中心すぎると言って女性の歴史的人物の紹介に力を入れていた。

そういう教師だけにタケルには意外だった。


ただし、今なら彼が何を伝えたかったのか理解できるかもしれない。


というのも、仰向けになっているタケルは、下半身を余すところなくエレーヌに晒しているからである。


エレーヌが右太腿上部にうっすら残る傷跡をさすった後、手をかざしている。

青白く光っているのを見ると治癒の魔法のようなものなのだろう。


実はタケルはミレーヌの服からのぞく胸の深い谷間に体が反応し、部位が屹立してしまっていた。


かなり、かなり気恥ずかしい。


エレーヌの表情をあえて見ないようにはしている。


しかし、こういう時に動じない、あるいは笑い飛ばせるのが、獅子谷が言うところの男らしさというものなのだろう。

戦闘直前の軍艦秋津洲に乗る男たちの笑いを想う。


自分もそうありたい。

そして今、バツの悪そうな無言よりも、笑って応じてみせたい。


「エレーヌさん、あの…、傷のそばに突如、物見櫓(ものみやぐら)が建ってびっくりですね!」


と今思いついたぎこちない?比喩を混ぜながら続けて、


「ヒューマンの男は、魅力的な女性には、体がついこうなってしまうんですよ。僕も修行が足りません」


「まぁ!」


というエレーヌの言葉は驚きを帯びていた。


「…魅力的なんて…。

若いのだから気にせずに。健康な証拠ですよ。

ヒューマンもエルフも男性は同じですから」


と言ったエレーヌは、少し頬を赤らめながら笑みを浮かべている。


そんな雰囲気に接し、タケルも緊張を解いて笑顔になれた。


施術が終わると、


「では、立ち上がってみてください」


というエレーヌの言葉で、タケルは思い切って立ち上がってみた。

それに先立って、「ポジション」を上手く工夫してズボンを履き直していた。


先程のような痛みはもはや少しも感じなかった。


「エレーヌさん、痛みが全くありません。ありがとうございます!」


「効果があって良かった。もう歩けますね」


そのやりとりを聞いてか、エルゼが部屋に戻ってきた。


彼女のスマイルにタケルは安らぎを感じたのであった。

上村彦之丞艦長の言葉は、表記の上で現代風に手を入れてあります。

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