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戦うお姫様と森の偏屈魔導師  作者: 朝川 椛
第二章 ほっとけなくて
9/33

2-2’

   * * *



 外へでるとすでに太陽が顔を覗かせていた。眩い日差しが目に沁みて、イダエアは目を細める。


「ずいぶん賑やかなのね」


 鳴り物の鈴を持ちながら歩くと、街の通りは建ち並ぶ露店と行きかう人々でごった返していた。


「そりゃ一般参賀ってのは、言わば祭りの一環いっかんだからな」


 黄色いとんがり帽子と衣装に身を包み道化に扮したレディトがラビスへ同意を求める。


「そうだな」


 肯定するラビスの衣装は黄色で統一されていた。白い仮面を被り片手に小さなハープを手にしながら、ラビスが問いかけてくる。


「お前、歌は歌えるのか?」

「簡単なのでよければ、少しなら」


 イダエアはためらいがちに頷いた。故郷の村祭りで見た程度でいいなら少しは歌えなくもない。


「ならいい。ツクに調子を合わせろ」

「わかったわ」


 イダエアはラビスへ首肯する。前方では、茶色いポニーテールのかつらをかぶり緑色の踊り子らしい衣装を身に纏ったツクが、小さな太鼓を片手に大声を張りあげはじめた。


「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! こちらは股旅またたび、ツンガー一座のお通りだよ! どちら様も目に見よ、音に聴け! 道化のツンガー愉快に踊り、踊り子ミリーの可憐な舞い、世にも珍しい女吟遊詩人ルスの詩に酔いしれたければこちらへおいで!」


 調子良く楽器を鳴らすツクとレディトに周囲の注目が集まる。

 大歓声が沸き起こる中震える足に叱咤してしていると、おもむろにラビスがハープを奏でだした。目線で合図を送ってくるラビスへ頷き、イダエアは取り囲む人々の前で声をあげる。


「はじまるよ、はじまるよ。語るは今。国の要の物語」


 持っていた鈴を鳴らしながら、イダエアは歌いだした。


  昔々のその昔

  七つの子どもが大人になった

  彼にゃ職なく親もなく

  さらには桃の眼紫髪を持っていた……


 最後まで歌いきりイダエアは口を閉ざした。ハープの音がやみ、静寂が辺りを包み込む。徐々にではあるが、負の感情が膨れあがっていくのを感じた。


「お前ら! 国に逆らうつもりか!」


 観客の一人が石を拾いあげ投げつけようと構えた。避けられないととっさに目を閉じる。


「危ねえ!」


 レディトが叫び、ラビスが庇おうと前へ駆けつけてくれた。その瞬間、別の観客が警告を発してくる。


「やめておけ! あの女、もしかすると預言者かもしれねえぞ!」

「預言者!」

「預言者なのか?」


 観客たちが口々に言い合いはじめた。膨れあがっていた怒りが次第に恐怖へと変わっていく。


「国が亡びるってことか?」

「なんてこと!」


 ざわめきに悲鳴じみたものが混じりはじめた時、群衆の中から白いローブを身に纏った男が衛兵たちを従えてやってきた。


   * * *


「お前、確か吟遊詩人と言っていたはずだが。預言者なのか?」


 男の問いに、イダエアは膝を折って答える。


「どうとでもおとりくださって結構です」

「このような不快な預言を、王へ進言しろ、と?」


 冷たい声音で問いかけてくる男へ、イダエアは肯定した。


「はい。ぜひともお耳に入れていただきとう存じます」


 深々と頭を垂れたまま、男の足元を観察する。ちらりと見える裾や靴には美しい装飾が金糸で施されていた。おそらく、服装からしてもかなりの地位にいる人間だろう。


(やったわ!)


 バスクは王との対面が叶うことはないと言っていたが、こうして王に近い人間と会うことができた。内心でガッツポーズをしていると、何やら思案していたらしい男がふむ、と提案してきた。


「だがお前が魔女でない証拠はない。今この場で証明させてもらおうか」


 抑揚のない無機質な言葉に対し、イダエアは小さく息を呑む。確か魔女かどうかの審判は服を剥いであれこれ調べるものだと聞いていた。そんなことを今この場でさせろなどと要求してくるとは。


「お断りいたします」


 イダエアはきっぱりと拒絶する。だが、男が納得した様子はなかった。


「残念ながら断る権利はお前にはない」


 冷酷に宣言し錫杖を振ると、男の傍に控えていた衛兵たちが腕を掴もうとする。


『イダエア!』


 背後にいたレディトとツクが同時に声をあげ、衛兵を牽制してしがみついた。しかし、すぐに振り払われてしまう。


「ツク! レディトさん!」


 二人の元へ駆け寄ろうとするも、眼前に衛兵たちが立ち塞がってきた。


「くっ! こうなったら!」


 イダエアはリングブレスレットへ手をかける。モーニングスターをだそうと動きだしていると、横からその手を押さえられた。


『ひらのつむじ!』


 ラビスの鋭い声が響き、無数の葉嵐が起こる。


「ラビス!」


 前に立つ背中に向かい叫ぶと、ハープを放り投げたラビスが短く命じてきた。


「逃げろ!」

「戦えるわ!」


 イダエアはラビスに近づき自らの意思を告げる。すぐさま振り向いたラビスが怒声をあげてきた。


「馬鹿! 早く行け! おいレディト! こいつをつれて行け!」


 無理やり腕を掴んでくると、立ちあがっていたレディトへ押しつけられる。


「わ、わかった! 行くぞ、ツク!」

「うん!」


 ツクが走りだす。


(どうしよう……)


 一人でこの群衆を突破できるとは思えない。しかも彼は国に追われる身だと言っていた。


(逃げたらラビスが……)


 走りだそうとするレディトを前に逃げることをためらっていると、レディトに強く腕を引かれた。


「イダエア、お前も来い!」

「で、でもラビスが!」

「いいから、来い!」


 再度腕を掴まれ、悲鳴の中を駆け抜ける。波打つ人の群に揉みくちゃにされやっとのことで群衆から抜けだすと、腕を掴んでいたはずのレディトと先を走るツクの姿がなくなっていた。


「え? レディトさん? ツク?」


 慌て辺りを見回すが、やはり二人の姿は見当たらない。


「まずいわ。はぐれちゃったみたい」


 どうしたらいいだろう。


(考えろ、考えろ!)

 

 内心で念じるが、いい案が浮かばない。


(地下へ戻る? それとも……)


 ラビスを助けに戻るべきだろうか。髪の端を捩りながら迷っていると、突如手を強く引かれた。


「あ!」


 バランスを崩したたらを踏んでいると、影に叱責される。


「しっ! 静かに!」


 そのまま身を抱えられ、物陰へ押し込まれた。イダエアは慌てて上を降り仰ぐ。目前には見知らぬ青年の顔があった。


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