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戦うお姫様と森の偏屈魔導師  作者: 朝川 椛
第二章 ほっとけなくて
6/33

2-1

「なんだって表へでたんだ!」


 腐敗臭と苔の臭いに淀んだ排水路から隠し扉を経てやってきたレジスタンスの地下道へ、レディトの怒号が響いた。


「だって……」


 得意の屁理屈も思いつかなかったのか、ツクが落ち込んだように下を向く。


「俺はとめた。だがツクがでると言って聞かなかったんだ」


 ラビスが言い訳がましいことを告げるその前で、レディトがまた怒鳴った。


「街に入ったら外へでるな! 地上へあがったら面倒なことになるのはわかっていたはずだ!」

「わかっている! だからとめたと言っているだろうが!」


 正論を言われて腹が立ったらしく声を荒らげるラビスへ対し、レディトが忌々しげに舌を打つ。


「何言ってやがる! 現に危ういところだっただろう! 俺たちが機転を効かせて迎えに行かなかったらどうなっていたことか! わかってんのか?」


 文句を言い募るレディトを前に、ラビスが黙り込んだ。


(結構子供っぽいところのある人よね)


 後ろで二人のやりとりを聞きながら、イダエアはラビスのことを思い一人頷く。すると、すぐ手前から不自然なほど陽気な声がした。


「そ、そういえば、本当にタイミングぴったりだったよね! なんで?」


 無邪気そうに尋ねるツクへ向かい、レディトの声がさらに不機嫌になる。


「嫌な予感がしたんだ! またお前が我が儘言ったのか?」

「だって、そのほうが近道だったし。それにイダエアに街の中を見せてあげたかったんだもん。夜だからちょっとくらい平気かと思って……」


 レディトの詰問に対し勢いよく反論していたツクだったが、重くなっていく圧に耐えられなかったのか、結局は言葉を濁した。しゅんとしているツクに対し、レディトの説教が続く。


「そのちょっとが命取りになるんだ! ……って、誰だ? あんた」


 勢いよく振り返ってきたレディトが目を点にした。今頃気づいたのか、と内心であきれていると、ツクが口を挟んでくる。


「イダエアだよ」

「ツク、お前はちょっと黙ってろ。お前、ここへ来た目的はなんだ?」


 あっさりと回答するツクを諌めると、レディトがひたと見据えてきた。イダエアはどこからどう話したものか一瞬迷ったあと、軽い口調で言葉を紡ぐ。


「ただの旅人よ。街の近くでこの子に会って森へ入っただけ」


 肩を竦めながら告げると、ツクが援護してくれる。


「ボクを助けてくれたんだ。今もボクが危ないからってついてきてくれたんだよ。すっごく強いんだ」


 ツクの言葉にレディトが眉根を寄せた。


「助けた? あんたが? どこから来た?」


 あからさまに警戒されている。イダエアは立て続けに質問してくるレディトに対し冷静な対応を心がけた。


「スラルド村よ。法律のことはさっき聞いたけど、うちの村にはまだ伝わってなかったわ。王都へ来たのはちょっと会いたい人がいるからよ」

「恋人か?」

「違うわ。叔父よ。それより、ここは今どこなの?」


 簡単に身の潔白を主張し逆にレディトへの質問を開始すると、若干警戒を解いたらしいレディトが答えを告げてきた。


「ここは俺たちの拠点だ」


 見ればわかることを説明してくるレディトへ、イダエアは質問を重ねる。


「地下で暮らしてるってこと? なぜ?」

「このままでいたら国がヤバイからだ」


 レディトの発言に息を呑む。やはり、この国はおかしくなってしまっているのか。イダエアは信じがたい事実を突きつけられ拳を握り締める。


「それって、具体的にはどういうことなの?」


 極力平静を装い問いかけると、背後から小さく鋭い声が飛んだ。


「くわしい話はあとにして! 今はまず仲間と合流するのが先でしょ!」


 レディトの仲間らしい、亜麻色の短い髪をしたヨシアの叫びにレディトがはっとする。


「わかってるよ。来い! こっちだ!」


 返事とともにレディトが踵を返した。


(母さん。あたし、ちゃんと叔父さんを捜せるかな……)


 もしかしたら、彼らと同じように厄介なことへ巻き込まれているかもしれない。考えれば考えるほど、不安が波のように押し寄せてくる。


(約束、守れるかしら……)


 イダエアは歩みを早めるレディトの後ろ姿を眺めながら、そっとリングブレスレットの感触を確かめた。

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