3-1
定期的に二度ずつ叩かれる音にイダエアは来客を悟った。二人を振り返るが、ラビスとツクは一向に返事をしない。
「でなくていいの?」
身を固めている二人の様子を怪訝に思って尋ねると、緊張を孕んだ声が返ってきた。
「いいんだ」
「お客さんかもしれないじゃない?」
「俺たちに表から訪ねてくる客はいない」
そもそもこの家の玄関は隠し扉になっている、と冷静な声音で答えてくるラビスにイダエアは語るべき言葉を失う。
「でもラビス、もしかしたらまた王宮から来た人かもしれないよ?」
「なら尚更だ。放っておけ」
ツクの言葉をラビスが切って捨てる。イダエアは昼間の出来事を思いだし、ねえ、とラビスへ尋ねた。
「さっきのことがばれたとかじゃないわよね?」
「可能性はある。わかったらしばらく静かにしていろ」
「……わかったわよ」
不本意ではあるが承諾し、沈黙を守る。しばらくするとノックの音がやみ、ドアの下から封書が差し込まれた。
「ラビス、これ」
ツクが手に取りラビスへ見せる。
「この印、やっぱり王族の紋章じゃない! 岩に隠れているはずなのにどうして?」
目を見開いて問うのをよそに、ラビスがツクから封書を受けとった。
「外に置いておけば勝手に部屋へ届くよう術を仕込んであるからだ」
話しながらラビスは、封書を開けもせず細かく破いて暖炉へくべてしまう。
「なんてことすんのよ! 大事になったらどうするの!」
あまりの展開に声を荒らげると、椅子へ座ったラビスが面倒臭げに口を開いてきた。
「安心しろ。お前のことじゃない。彼は俺に用があるんだ」
「なんで王族が?」
納得がいかず眉間の皺を深くすると、ツクが代わりに説明をはじめる。
「ラビスは昔宮廷魔導師だったんだよ。だけど今は辞めてここにいるでしょ? だからまた戻ってきてっていつも……」
「ツク」
話の腰を折ったのはラビスだった。いつも以上に低く響く声へはっとして、ツクがラビスを見やる。
「ラビス」
「それ以上よそ者に話すな」
「でも……」
言い淀むツクにラビスが背を向ける。イダエアは意外な事実に興奮しラビスの手を取った。
「ラビス! あなたただの魔導師じゃなくて宮廷のお抱えだったの? なら話は早いじゃない! 今すぐ戻るべきよ。ツクのためにもね」
「なんでそうなる? いつも唐突だな」
ラビスの口がへの字に歪んだが、だって、とイダエアは構わず考えを告げる。
「ツクたちを差別するよう御触れをだしたのは王様でしょ? なら、直接言って撤廃してもらうのが一番手っ取り早いじゃない」
「話にならないな」
「なるわよ、絶対!」
邪険に手を払いのけるラビスの後ろ姿に、イダエアはきっぱりと宣言してみせる。だが、ゆるゆると振り返ったラビスの瞳は怒りに燃えていた。
「そんなことはやるだけ無駄だ。俺は無意味なことに時間を費やすなんてまっぴらだな」
「やりもしないで無駄と決めるほうが人としてどうかしてるわ! あなたはツクがかわいくないの?」
なんとか説得しようと言い募るも、ラビスが手を横に振ってくる。
「それとこれとは話が別だ」
「何よそれ。あなたってなんかいちいち後向きな考え方してるわよね」
「それのどこが悪い。だいたい、知り合ったばかりの赤の他人に俺の生き方をとやかく言われる筋合いはない」
呆れたような声音にイダエアは苛立った。
「なくないわよ! ツクはあたしの友達なんだから!」
「うるさい! これ以上俺に干渉するな!」
「なんですってぇ!」
怒り叫んでくるラビスにイダエアも声を裏返す。言い返してやろうと袖を捲って近づくと、ツクが間に割って入ってきた。
「ラビス、ちょっと落ちついて。イダエアも」
困り切ったようなツクの声音に息を詰めていると、ぐっと唇を噛んだラビスが背を向けた。
「寝る!」
「何よそれ! 逃げる気?」
歩きだしたラビスに挑発するが効果はない。
「この卑怯者!」
背中へ向かい罵ると、ラビスがいまいましげに足音を高鳴らせ自室の扉を開閉した。
「ラビス……」
悲しげに呟くツクを尻目にイダエアは吼える。
「何よアイツ! さいってー! ツク、あんなのと一緒にいないほうがいいんじゃない?」
危ないところを助けてくれたし、話の解るいい人なのかもと思いはじめていたのに。
(あたしのときめきを返してよ!)
むかつきが頂点に達し腕を組んで片足を踏み鳴らしていると、ツクが重い口を開いた。
「イダエア。あのね、あの……。ラビスがあんなふうなのには理由があるんだ」
「だからって!」
苛立ちが収まらず声をあげるが、ツクに遮られる。
「ちょっと、聞いてもらってもいい?」
首をかしげてくるツクを前にそれ以上大人げない態度もとれず、イダエアは渋々と首肯する。
「……わかったわよ。ツクのお願いじゃしかたないものね」
大仰な溜め息を吐いてツクを見ると、お茶を入れるね、とツクが微笑んだ。




