女剣士の末路
いつもありがとうございますなのです
「グミッちー!遊びに来たぞー!」
客間まで届くような大きな声でそう言ってガンガンと門扉を叩き出す女剣士。知人とはいえ、この町の代表に会うというのに近所の友達の家にくる感覚とは無茶苦茶だ。この人なんというか他にも色々と問題がありそうだ。
大きなため息をついたグミさんの指示で山羊頭の使用人さんとは別の使用人さんが門を開けに行く。
「あれ、いつものヤギさんじゃないのだな?あの人の冷めたような目を見るのも密かな楽しみであったのだが……ああ見えて多分私に気があるぞ、あれは」
屋敷に入れてもらえたようだが相変わらず大きな声で話す。ロープを持ってドアの死角に立っている目の前の使用人さんがブンブンと首を振っている。勘違いも甚だしいと言った顔だ。わかりましたから気取られないようにおとなしく待機してください。
「それでは、呼んで参りますので客間でお待ちください」
決めておいた台詞を言いながら扉を開け、外の使用人が中へと勧める。うむ!と目を閉じながら胸を張って無警戒に部屋の中に入って来たところを、使用人さんとセラーノさんが取りおさえる形となった。そのまま縄でグルグルと巻き上げる。
「くっ、何をするのだ!?……はっ、もしかしてこの場で私を辱めるつもりか!?グミッちはもう手駒なのだな!?やられるくらいなら、殺せ!」
しばらくは何が起きたか理解できなかったのか無言であったが、開口一番そんなことを言う女剣士。そんな彼女の目の前にグミッちことグミさんが火搔き棒を持ち腕を組んで現れる。
「いっそ本当に殺さないと治らないのかしらね。あなたのその、春のエルフよりもピンクな頭は」
「その声はグミッち!そんな、グミッちがこれを計画したというのか……闇堕ちした悪の女幹部だと言うのか!私はノーマルだ!残念ながらグミッちの期待には応えられない」
ブチっと何かが切れたような音がした。そのままグミさんが火搔き棒大きく振りかぶるので慌ててグミさんを僕達で取りおさえる。
「お願い止めないで、この子殺せない」
「落ち着いてくださいグミさん!早まっちゃダメだ!」
どうどうと宥めると少し冷静さを取り戻せたようだった。
「はー、はー。ご、ごめんなさいねお見苦しいところを見せて……もう大丈夫」
だが女剣士は空気を読めなかったようで、グミさんの火搔き棒を目に留めると何故か顔を赤らめる。
「なるほどその棒を使ってあんなことやこんなことをするのか!恐れ入ったよグミッち……生産性のないことは私の正義に反するが、この状態では抗えぬ!くっ殺せ!」
「何が正義よ!お望み通りに殺してあげるわよおおお!」
再び血が昇ったグミさんに押しのけられ、振り下ろされてしまった。鈍い音が響く。止められなかったかとその先を見ると女剣士の頭をわずかずれたところに火搔き棒が叩きつけられていた。大理石で作られたであろう床の一部が砕けている。
「グ、グミッち……?もしかして今、私のことを本当に殺そうとした……?」
涙目になりながらそう言う女剣士に対し、冬の風よりも冷たい視線で返すグミさん。
「この町から、一刻も早く出て行きなさい。あなたが引き起こす問題が連日報告されるので私も愛想が尽きました。以降何かがあっても他人です」
「そ、そんな!私は正義にのっとって……」
「その正義によって町の人が苦しめられるのを私は黙って見過ごせないといっているのです。2度とこの町に来ないでくださいね」
「ま、待って!反省するから!ちゃんといい子にしますから待ってグミさん!」
流石にまずいとわかったのか愛称呼びしなくなった。
「私も舐められたものですね。害があるとわかっているのになんの利もなくそれが聞き届けられるとでも?」
むしろあなたが居なくなってくれるだけで益が発生するのですがと言われ、ついには何も言い返せなくなったのか声を出しながら女剣士は泣き出した。
それを見てため息をつき、グミさんがこちらを向く。
「私は本当に甘い。セラーノ、こんな所でこの子を許してもいいですかね?」
「ええ、後は念のため反故にされないように念書を書かせると言うのもいいと思いますが私は反省してくれると信じましょう」
次はないから、と目に光を宿してない様子で女剣士に告げるグミさん。反省していると言う言葉を引き出すための一芝居だったのだ。……一芝居だったんだよな?砕かれた床を見てたらりと汗が流れる。
そこで女剣士さん……名前はカシスさんというらしい。カシスさんは自分を取り押さえてるセラーノさんがさっき難癖つけた相手だと気がついたらしい。
「さ、先ほどは失礼しました……本当に魔物だと思ってしまい正義のために身を張ろうとして、ご迷惑をおかけしました」
すっかりと落ち込んでしまっている?(なんか自己擁護が多い気もする)彼女に対し、セラーノさんは優しく頷く。
「過ちを認め、繰り返さないでいただけるのならその謝罪は受け取りましょう。私もこの町が好きなんですからお願いしますよ?」
「はい……ごめんなさい。後で町の人にも謝ってきます」
結局僕達がここにきた意味があったのかはわからないが、何かあったら頼ってくださいとグミさんはじめとする屋敷の人達からはすごい感謝されたので良しとしておこう。セラーノさんもすごく助かったって言ってくれたし。僕達は屋敷を後にしたのだった。
ちなみに後で聞いた話によると謝罪にはグミさんとセラーノさんがついて回ったそうだ。アムストルの住人の温厚さで皆笑って許してくれたらしい。
早とちりでよく事件を起こすが、老人や子供のような弱者が困っていると真っ先に駆けつけて助けようとしてくれる、親切だけどちょっとおかしな女剣士がいるとアムストル名物……迷物?になったのはまた別の、少し先のお話。
ちょっとした町の寄り道、なのです