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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
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コイスルオトメ

ラタン姉の視点です

「パジャマパーティーだ!女子会だ!恋する乙女の集まりだー!」


 ボク達に割り当てられた部屋に入ると途端にイブキちゃんがはしゃぎだした。恋する乙女って……該当しそうな年齢がスズくらいしかいないのではと思ったが、それを言うと自分の首を絞めるようなものなのでやめておく。ボクは大人なのだ。


 ポスンと皆でベッドに乗り込む。フカフカのベッドは久々だ。馬車や、キルヴィが用意してくれる寝床は少々硬いので寝心地まではよくないのだ。今夜はきっとよく眠れるだろうな。


「で、スズちゃんはいつからキルヴィ君のことが好きになったの?」


 ゲホッゴホッと、大きく伸びをしていたスズがむせている。幾ら何でも単刀直入すぎるでしょうよイブキちゃん。


「私は使用人としてキルヴィ様に仕えているんです!好きとか、そんなんじゃないですよイブキさん!」


 スズがそうやってイブキさんに怒る。若い子達の話だ、ボクは口を出さずに聞くだけに留めておくのです。ボクは皆と、寿命がまるで違うのですから。そう思っていたら何故だか少しだけ胸がチクリとした。


「ふーん?じゃあキルヴィ君が他の子と付き合ったり、結婚してもスズちゃんは大丈夫なんだねー?」


 意地悪そうな顔でイブキちゃんがスズにそう尋ねている。キルヴィが誰かと結婚かぁ……多分、アンジュが結婚した時と同じくらい嬉しく思うだろうけどモヤモヤもするんだろうな。でも、ボクは誰と結婚することになろうともキルヴィがそれで幸せになってくれるならそれで良いのです。


「うー!?い、いやキルヴィ様が選んだ方なら良い人でしょうし?私は使用人としてその人にも仕えるだけですし?べいぎでずじ?」


 全然平気そうではない様子でそう答えるスズ。自分の心に嘘はつけないのか、滝のような涙を流している。見兼ねてハンカチを渡してあげると受け取ってぐしぐしと顔を拭う。


「もう、意地悪ですイブキさん。こうなりゃやけです!ええそうですよ、私はキルヴィ様が好きです!大好きです!いつからかって?戦争を無事に終えて、リボン買ってもらえた頃から!……でも、使用人がいきすぎた気持ちを持っていてもダメですから、これは叶わない恋なのです!以上!」


 そう言い切るなりプイとそっぽを向く。……好き同士であるならば立場なんて気にしないでも良いと、ボクとしては思うんですけどね?


「ご、ごめんねー?泣かせるつもりじゃなかったんだけどね?……でも素直じゃないなあスズちゃん。それって諦めなのかな、それで本当に後悔しない?」


 謝りつつ、イブキちゃんがそう問いかける。その声はいつもより低く、スズは思わずイブキちゃんの顔を見てしまう。その目は今をみていないような遠い目をしていた。


「私はしたよ、後悔」


「え……」


 いつもと全く違う様子のイブキちゃんから思わず後ずさりしてしまうスズ。ボクはこの後イブキちゃんが何を話したいのか、なんとなく察した。


 ……ああ、そうなのですね。


 この子はつまり。


「2人とも知ってるかもしれないけれど、アンジュさんにはウルっていう一人息子がいたんだ。私はね、そのウル君のことが子供ながらに好きだった。でも、お父さんが元使用人だし、商家の娘だから身分がつりあわないんじゃないかとも思ってたんだ」


 イブキちゃんが少し近寄ってきてゴロンと仰向けに寝転がる。


「そうこうしているうちに私がドジしちゃってウル君の宝物壊しちゃって。ウル君が病気になってなかなか会えなくなっちゃって。謝ることも、心に秘めていたこの好きだって気持ちも伝えられないままウル君は死んじゃった」


 独白をしながら、何もない空を掴もうと天に右腕を伸ばす。まるで過去に戻るための術がそこにあるかのように。


「おかしいよね、もうずっと昔に死んじゃっているのに、記憶の中のウル君はいつまでも少年の姿のままで私はだんだんと歳を重ねて言ってしまうのに。それでも私、未だに好きなんだ。好きって、ごめんねって伝えることができなかったせいなんじゃないかなって思ってる」


 明るく振舞っているようで、ふざけているように見せて、この子の本心は過去に囚われているのだ。


 つまりこの子は、今を生きることができていないのだ。


 何故だか、不意に未来の自分を見ている気分になって目をそらす。キルヴィが居なかったら今頃ボクはアンジュを思い、こうなって居たのかもしれない。なおもイブキちゃんの独白は続く。


「私、多分子供が好きなんじゃないんだ。特に男の子にはウル君を重ねて見ているんだよ。キルヴィ君の事も、クロムの事もちゃんと見ていないと思う。ラタンさんの言う通りだね、こんなんじゃ例え選んでくれて結ばれたとしたって、幸せになれない。私も、キルヴィ君も、クロムだって」


 それはとても悲しい言葉だ。知らない子であるならば非難したかもしれない。でも、ボクにとってこの子も身内の1人なのだ。とてもできそうにない。


「同じだと思っていたナギちゃんは割り切った。私はその程度の心でウル君を見ていたのかと内心見下した。見下して、妹になんてことを考えているんだって自己嫌悪した」


 ナギちゃんと結ばれたと聞く武器屋のお兄さんを思い出す。ナギちゃんも同じように過去に囚われていたのか。そんなあの子をお兄さんが上手いこと導いてくれたのだろう。ナギちゃんは前に進めたのだ。


「私は羨ましいよスズちゃん。なんでもできて、皆の英雄にだってなれて、何より健康で。そんな子が身近にいるあなたが羨ましい」


 スズは何も言えないでいるようだった。イブキちゃんは返事を待たずに次の言葉を紡ぐ。


「長くなってごめんね2人とも?いつまでも近くにいるのが当たり前だって思っちゃダメだよ?それってすごく幸せなことなんだから。じゃ、おやすみなさい」


 言いたい事を言い切ったとばかりにイブキちゃんは寝息を立て始めた。最後の言葉は、いやもしかしたら今の言葉は全部、ボクにも向けられていたようだ。


 部屋を沈黙が包む。ボクも、スズも心の整理が必要ですぐには寝付けそうになかった。スズがもそりと近づいてきて話しかけてくる。


「ラタンさん、ラタンさんはお兄ちゃんが好き?それとも、キルヴィ様が好き?」


「ボクは……そもそも寿命が違うのです。だから」


 また、胸がチクリと痛む。そんなボクに少しため息をついてスズは話を進める。


「私は、好きかどうか聞いたんですよラタンさん。寿命だとか、そんなんじゃないんです。好きなんですか?……好きなんですよね?」


「ボクは」


「だとしたらどちらでしょう?特に気にかけてらっしゃるのでやはりキルヴィ様、なんでしょうか。だとしたら敵いませんし、何よりも私自身もラタンさんが好きですから……でも、諦めたくはないです」


「ちょっとスズ」


「兄はどうでしょうかラタンさん。容姿は整ってますし家事全般こなせます。戦いだって、知っての通り最近の私達の要です。優良物件だからそちらに」


 パシン、スズの頬を軽く叩く。そこでハッとしたかのように正気に戻った。


「落ち着きなさいスズ、暴走してるのです。クロムは物じゃないですし、ボクはキルヴィのお姉さんなのですよ?だから何も心配いらないのです」


 そう、何も心配いらない。

 だから、この胸の痛みは、恋だとかではない。


「……ごめんなさいラタンさん。寝る前にあともう1つ聞いてもいいですか?」


 ボクの顔を見て一度何かを言いたそうにしたもののスズが頭を下げて謝る。


「……なんですか?ボクが答えられるのは少ないですよ」


「一夫多妻制ってどう考えてますか?」


「貴族が正妻と妾とってしてる奴と、すべての妻を平等に愛する奴とありますね。後のはこの世界でメジャーではありませんが……優秀な遺伝子を残したいと考えるのは有りだと思ってますよ?」


「私は1番じゃなくてもいいんです。だから、キルヴィ様のそばに居たい。支えてあげたい。もちろん、1番ならそれは嬉しいですけど……決めました、私明日からこの気持ちを隠しません。ライバルですよラタンさん!」


「ライバルって……話聞いてましたか?ボクは寿命が違いますしお姉ちゃんだからって」


「……今度はお兄ちゃんの事に触れないんだ。やっぱりラタンさんはキルヴィ様が好きなんじゃないですか」


 それはライバルって言われたから、と言おうとしたが言葉が出なかった。ボクは、キルヴィが、好き?


「もし、寿命が延びる術がこの世界のどこかにあったら……いや、グラウンさんみたいに死後も自我を保てる可能性も込みならば、ラタンさんは」


 トスッ。


 言葉の途中でスズを気絶させる。胸の痛みが私に気づいてと増していく。


「そ、こまでです。今夜のことは忘れるのです。そんな、そんな」


 気がつけば涙が流れていた。

 ああ、この中で誰よりも年上なのに。乙女って歳でもないのに。


 ボクはキルヴィを1人の男として愛していると自覚してしまったのだ。明日からどんな顔をして会えばいいのか。いっそ、ボクもこの夜のことを忘れてしまえればいいのに。そう思いつつ、冴えた目で早く寝よう早く寝ようと横になるのだった。

…ハーレム展開にする予定はなかったんだけどなぁ。い、いやまだどうなるかわかりませんし

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