2人のアードナー
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僕がアードナーであると知り、グラウンさんは随分と気を良くしたようだった。気を休めてくれと小型ゴーレムを変形させ、僕達に椅子を作ってくれた。僕は躊躇いなく座ったが、他の皆はまだ少し警戒しているようだった。
(ところで我らが末裔キルヴィよ。先程第三の目もないがと言っていたが……その第三の目とはいったいなんのことだ?)
グラウンさんが首を傾げてそう尋ねてくる。うん?アードナーであるグラウンさんの方が知っているんじゃないのか?
「第三の目は、僕達メ族なら生まれた時から額に持っている結晶体のことです。僕はそれを持たずに生まれてきてしまったものですから、出来損ない扱いをされていましたが……」
(なんだそれは?少なくとも、私たちの生きていた時代のアードナーはそんなものはなかったぞ?)
いったいどういうことなのだろうかと考えようとした時、ラタン姉がふと思い出したかのように呟く。
「キルヴィ、キルヴィ。あなたは今のアードナーの中でも先祖返りってステータスについてませんでしたか?」
そういえば、忘れかけていたけど僕は先祖返りだった。グラウンさんが知らないということは、第三の目の存在はアードナーの中でもここ500年ばかりの話なのだろうということが考えられた。
グラウンさんが自分の目元の結晶体を撫でながら考えているようだった。そして、自分なりに考察ができたのか指を一本立ててこちらに向き直った。
(私の目元のこれは魔晶石が人体に馴染んだ魔結晶というものだ。マ族は、アードナーは特別な魔眼を持つ。この魔結晶を通してな。もしや、その第三の目というのは血が薄れるにつれて、魔結晶が魔眼が目に馴染まなくなった結果生み出された器官なのではないか?)
その考察をした時のグラウンさんは何やら確信めいた雰囲気をしていた。つまり、僕は第三の目を持っていないのは……そう考えて自分の目元を触る。他の人と変わらぬと思っていたが、自分のここにはグラウンさんと同じように魔結晶があるのだろう。
僕は出来損ないなんかではなかったのだ。
そう考えると一筋、涙が流れた。無言でラタン姉が頭を撫でてくれる。スズちゃんもよかったね、キルヴィ様と声をかけてきて、クロムは背中を軽く叩いてくる。そんな様子を見て、グラウンさんがふと笑ったように感じた。
(うむ……今のアードナーは迫害されることなく他の種族とちゃんと交流ができ、こうして仲良くなれているのだな。適応できているようで私は安心した)
心からの安堵の声。それを聞いてようやく皆は警戒を解いたようだった。グラウンさんが続ける。
(キルヴィはメ族、と言ったな。名前から察するに魔眼を引き継いでいった一族なのだろう。だれか他のアードナーを継ぐ血族について何か知らないだろうか?)
「僕が知っている事は少ないですが、ワン族、今ではドワーフと名乗っているアードナーが今ではこの竜の峡谷が位置しているグリア公国を立ち上げてますよ」
グラウンさんは不思議そうに首を傾げた。
(ドワーフ?奴らは私の生前から種族としていたぞ?文化を持たぬ野蛮な奴らであった故に国を持てるとは思えないのだが……いや、まとう。私の知っているドワーフではないのかもしれない。なにか特徴はないか?)
僕はラタン姉の方を見る。
「ドワーフといえば手先が器用で職人気質。武器や芸術品にうるさく文化を重んじている種族の代表格になってます」
(なるほど手先が器用、か。自分で言うのもなんだが私達も器用でな?ここにいるゴーレムもそうだがここで出た宝に装備があったかと思うが、それら全部私の手作りだ。文化のなかった種と交わる事で面白いように適応していったのだな)
まさか装備がグラウンさんの手作りだったとは。改めて取り出して確認し、今僕の椅子になっているゴーレムも見る。こんなものを作り出せるなら確かに器用であると感じた。
グラウンさんにもっと他に知っている事はないかと尋ねられる。が、ドワーフ以外のアードナーが神出鬼没で正体不明の存在であると伝えるとちょっとがっかりしたようだった。逆に生前マ族がどんな姿だったのかを尋ねて見ることにする。
そうすることでもしかしたら知っている種族がアードナーの血を引いているのではないかと考えたからだ。
(私達昔のアードナーの特徴?ふむ……翼を持ち空を飛べる、魔眼と呼ばれる瞳を持つ、遠くに音を伝える、感じ取れる、手先が器用、何か別の姿に変身できる……ちなみに私の場合は竜。そして全体的に身体能力が優れているまさに個として完璧といえる種族だと思う。だが全体的に傲慢であり、協調性もなく多種族を見下していた。他の種族と比べて数が圧倒的に少なかったのが欠点だろうな)
残念ながら特徴を聞いても現存の種族がアードナーの血を引いているかどうかはわからなかった。メ族のように少数民族となっているのか、ワン族のように性質だけ残ったのか……この辺は実際に他の種族と会わなければ感じにくいところだと思う。とりあえず覚えておこう。
しかし自らの種族についての欠点がわかっているあたり、グラウンさんはそのマイナス面の性質をどうにかしようと思っていたのだなと感じる。……傲慢さと聞いて族長の姿が一瞬だけ脳裏に浮かんだが、首を振って追い払う。
その後も色々話をしているとスズちゃんのお腹が可愛らしくくぅ、と鳴る。スズちゃんは恥ずかしく感じたのか会話をやめ真っ赤になって俯いてしまった。ここに到着してからだいぶ時間が経ってしまったようだ。お腹がすくのも仕方のないことだ。そろそろお暇しようか。
「すみませんグラウンさん、今日はありがとうございました。そろそろお暇しようかとおもうのですが……」
楽しそうにしていたグラウンさんだったが僕達が帰りたい雰囲気だと気づいて頷いた。
(私は死者故忘れてしまっていたが生者とはお腹がすくものであったな。気がつかずに長話にしてすまなかったな少女よ。そうか、帰るか……寂しくなるな。おっと忘れるところであった)
そう言うと骨となった手でグラウンさんが僕の手をとる。
(キルヴィ、未だ使いこなせておらぬその目、私ならば魔眼として開眼させることも可能だがどうする?)
魔眼と言う言葉の響きに胸が高鳴った。
僕が出した答えはーー




