ダンジョンマスター
「な、何事ですか?」
スズちゃんがそう問いかけたが、僕達は誰も正しい答えを持ち合わせていなかった為に誰も口を開けなかった。ただ、今のがアナウンスであり、正しいことを言っているのであれば僕達はこのダンジョンをクリアした事になる。
とりあえず、この場にいても何事も起きないみたいなので、先に進もうかということで扉を押そうと手をかけていたラタン姉がそっと力を込める。重圧な扉だったが見かけよりも軽いようですぐに開き始める。
扉の先は大きな広間となっており、両脇に動いていない小型ゴーレムと宝箱が山のように積まれていた。そして部屋の真ん中には豪華な椅子と、そこにまるで座っていたかのように散らばっている黒ずんだ骨があった。人型に見えるが頭にツノが付いていたり、眼窩のあたりが魔力を帯びた結晶化していたり、翼のようなものや長く大きな尻尾があったかのような骨があったりと今僕が知っている種族の特徴の、どれとも一致しないものだ。歴史の中で消えていった種族の1つなのだろうか?
そのまま骨を観察していると、悲しみとそれに勝る喜びがなんとなく伝わってきた。
(長かった……実に長かった)
再びアナウンスのような声。しかし、さっきのものとは違い男性的であり、どこか感情を帯びたような声に聞こえる。
(このダンジョンを作って500年という永い月日が流れた……冒険者は数えるほどしか入ってこなかったし、そのいずれもが罠の通路、小手調べのゴーレム達に敗れ散っていった)
豪華な椅子中心に散らばっていた骨がカタカタと動き始めたかと思うと、宙に浮いて組み立てられていく。そして人間の骨格となった骨は椅子に座って肩肘をつき、足を組んで虚となった眼窩でこちらを眺める。どうやら部屋に入ってからのアナウンスのような声の主は目の前の骸骨のようだった。
(改めて、おめでとう冒険者達。ああ、警戒しなくともこの部屋に罠などないし、いきなり襲いかかったりもしないから安心していい)
何も隠していないぞと言わんばかりに大きく腕を広げながら骸骨はそう言う。……そうは言われても、周囲を小型ゴーレムに囲われてて声の主自体もアンデットなのではそう簡単に気を許せない。僕達のそんな様子を見て愉快そうに骸骨は嗤う。
(結構、結構。それくらいの慎重さがなければここまでたどり着けまいか。ならばそのままでいいから聞いてほしい。私はマ族のグラウンという。このダンジョンを創り上げた、いわゆるダンジョンマスターという者だ)
目の前のグラウンと名乗る骸骨さんがここのダンジョンを創り上げた張本人なのか。それはそうとして、マ族?聞いたことがないがひょっとして……
(今の世がどうなっているかはわからないが、かつて我々は人々よりも優れし者、アードナーと呼ばれていた……とはいえ、私の生きている時代に他の種族に迫害され、散り散りとなった。500年経った今となってはその血が続いているかもわからぬ。滅んだやもしれぬな)
アードナー!その言葉を聞いて思わず前に一歩出てしまう。グラウンさんはそんな僕の方を見て、少し顔を上げた。
(うむ?そこの少年はアードナーに興味があるのか?いや、違うなこれは。この感じは……我らが血族の血の気配を感じる。少年はいったい)
顔を構成する肉がないにも関わらず、グラウンさんは何か一筋の希望ができたかのような顔に見えた。
「僕はメ族のキルヴィと申します。僕も、姿形は人と大差ないですが、第三の目もないですが、アードナーと呼ばれている一員です」
(なんと!)
グラウンさんも身を乗り出してこちらに進んでくる。カシャン、と骨が床を叩く音が響く。そして僕の目の前まで来ると、僕に目線を合わせ、目玉のないその顔で僕をじっと見つめてきた。
(そうか、同胞はうまく他の種族と交わる事で血を残すことを選んだか……少年のその目、うまく使いこなせてこそいないがまさしく我らアードナーのものよ)
思わず胸が高鳴った。
グラウンさんが言ったその言葉は、僕がこのダンジョンで得たものの中で一番価値を感じることができたものであった。