雑談と攻略と
「うーん……火に適性あるのは私とラタンさんだけど、これどうします?」
そういいながらスズちゃんは先程小型ゴーレムに貰った魔晶石球を手元で転がす。ほのかに紅い光を帯びているそれは揺らめく炎を連想させた。
「ボクはランタンも盾もあるのでいいのです。スズはどうしたいですか?」
「私ですか?……ラタンさん、ちなみに使うとしたならどんな風にすればいいかわかりますか?」
「魔晶石なので魔力を通す媒体としては最適。ですが球で持ちにくいため直接攻撃には向きません。杖は棒状なので魔法を放つのに方向性をもたせやすいですが、これは球なので自分で放つ方向を意識しないと全方位に向けられてしまいます」
全方位、ということは下手をすれば自分にも飛んでくるということか。それは扱い難いかもしれない。
「むー、練習次第かなぁ。じゃあじゃあ!売るとどれくらいかわかりますか?お兄ちゃんの剣に使われている魔晶石よりも色もずっと濃いし……高いのはわかるんだけど」
クロムの風の魔晶石の剣は武器屋のお兄さんがくれた貰い物で正確な値段はわからなかった。色は少し薄いが魔晶石製の一品物だ。ツムジさんによると魔晶石を丸ごと近接武器にしたものは珍しいらしく、金貨5枚は下らないという。
「そうですね……ボクはツムジじゃないし目利きなんてできないですけど素人目でも金貨50枚くらいにはなるんじゃないですかね?」
「ごじゅっ!?」
その金額を聞いてスズちゃんは驚き、つい魔晶石を放り上げてしまった。クロムがそれを慌ててキャッチしたところでスズちゃん以外の皆でふう、と一息つく。スズちゃんはというと
「50枚……はわ、はわわ。大金じゃないですか!それなら大事にしまっとかないと!いや、でも新しい武器にできるかも……ど、どうしましょうこれ!キルヴィ様、キルヴィ様ー!」
と魔晶石を放り上げたことで空になったにも関わらず、相変わらず持っているかのようにした手をこちらに向けてあわあわしていた。そこまで高価だとは考えていなかったのだろう。
僕に助けを呼びかけられたので、落ち着かせるためにも差し出された手を両手で握ってあげる。男の僕とは違う、女の子らしい白くて小さな手だ。
「落ち着いて……はい深呼吸。今は良いものが手に入ったことを喜ぼう?それにこの先に進むのであればそれ以上のものが転がっている可能性だってあるし、まだ驚くには早いよ」
手を握ってからもしばらくあわあわした様子であったが、深呼吸するように促すと従ってくれた。そのまま落ち着くまで手を繋いでおく。
「ごめんなさいキルヴィ様、取り乱しました」
「うん、落ち着いたようで何よりだよ」
スズちゃんがすっかり落ち着いたのを見て手を離す。その時に少し眉が下がったように見えたが瞬きをしたらいつものスズちゃんのようだった。今のは気のせいだろうか。
「さて、休憩はここまででいいかな。キルヴィ、進もうか」
伸びをしながらクロムがそう言う。飛竜やゴーレム相手にうまく立ち回れたと感じ、この先にどんな魔物がいるのかとワクワクしている。
そこからは大変だった。
細い通路があると思ったら後ろから大岩が転がってきたので僕が棍棒で殴り砕いて大岩があった方に進めたり、小さな部屋に入れたと思ったら天井が下がってきたので障害物で固定して穴を開けて天井裏の空間へ登れたりと、MAPに表されない空間があちらこちらにあったのだ。それらを全部見て回り、記録していくのは骨が折れた。
魔物はゴーレムに加えて鋭い一本角が特徴のホーンリザード、鎌の代わりに斧を装備したようなカマキリ型のアックスシックル、背中に人面が張り付いたフェイスバッドと、一癖も二癖もあるような奴らばかりだった。それでも無傷で進むことができたのは自分たちが強くなっている証拠でもあった。
そのいずれも、倒すと最後に小型ゴーレムがやってきて宝箱をこちらに渡してきた。中にあったのは魔晶石の球だったり、それぞれの魔物の素材を使って作られた装備だったり、見たことのないような記号が使われた金貨だったりと実にバラエティに富んだものだった。
そうして外の時間で大体1日が過ぎたんじゃないかと言ったところでダンジョンの1番奥、大きな扉がある場所にたどり着いた。この先はまたもMAPには表されていない。
「開けますですよ」
ラタン姉が扉に手をかけた、その時だった。軽快な音楽がダンジョン内に響き渡る。
<おめでとうございます!あなた方はこのダンジョン初めての攻略成功者です!>
アナウンスにどこか似ている声が扉越しに僕達へかけられたのだった。