対ゴーレム戦
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「おっきい……キルヴィ様、これは倒せそうですか?」
ひらけた場所で、天井まで5メートルはある場所なのにも関わらず頭がスレそうになっている相手を見上げながらスズちゃんがそう話しかけてくる。いつもみたいに相手の強さを知りたかったみたいだが、しかし相手は魔法生物であり、僕のMAPの生体反応の対象外だ。脅威度もわからず力量が見えてこない。
「ごめん、わからない。十分に気をつけながら対処するしかないよ」
「皆、きっとこれは太古に造られたと言われているゴーレムなのです!頑丈さ、力強さは竜ともいい勝負のはず、気を引き締めるのです!」
僕達よりも知識の多いラタン姉がそう断定する。ゴーレムといえば、おとぎ話の中に出て来た人造魔法生物のはずだ。先ほどの通路といい、ゴーレムにちょうどいいサイズで作られているこの部屋といい、あからさまに人の手が加わっている。ひょっとしてここは何かを隠したいが為に誰かによって人工的に造られたダンジョンなのか?
ゴーレムにつけられた、目のようにもカメラのレンズのようにも見える無機質な物がこちらを見据えている。甲高いピー、という音が聞こえたかと思うと、こちらに向かってゆっくりと進んでくる。それに対してクロムが僕達を庇うように一歩前に出て剣を構えた。
「なに、ドラゴンスレイヤーの私がいるからゴーレムなんて大丈夫さ」
……冗談めかしてはいるけど何度も使うあたり、もしかしてその称号すごく気に入ったの?そりゃあ確かに響きがかっこいいけどさ。
「きますのです!皆、衝撃に備えて!」
ゴーレムが腕を振りかぶる。ゆっくりとした動作に見えたがそれは大きさのせいだったのだろうか、迫り来る腕は思ったよりも早い。それをバックステップで避ける。ゴーレムの拳は床に向かっていく。殴られたところは地面が割れ、部屋全体を強い振動が襲った。バラバラと石飛礫が飛んでくるので急いで防壁を部分展開し、防いでみせた。
防壁を飛び越えて、ゴーレムの伸びきった腕をクロムが駆け上がる。ある程度登ったところでゴーレムが動き出したが、クロムの剣撃の方が早く、飛び降りながら腕の半分くらいをこそぎ落とした。
「いきますよスズ!」
「はい、ラタンさん!」
クロムが範囲外に出たのを認めると、ラタン姉とスズちゃんが大きな火の玉をゴーレムめがけて撃ち込んだ。容赦ない爆炎が襲いかかる。当たる直前、ゴーレムは残った腕を使って防ごうとしたようだったが、関係なく吹き飛ばした。もうもうと土煙が舞い上がる。
さあ、油断できない。まだ動けるかもしれないからゴーレムが消えて行った先に水の魔法弾と投石を何発か放つ。
やがて土煙がはれ、ゴーレムの姿があらわになった。
「ガ……」
そこには頭だけが残っていた。顔にあるレンズはひび割れ、無機質なはずなのにどこか恨めしそうに感じる。ゴーレムは頭だけとなってももこちらを見ていたが、どこからともなく小さな石の魔法生物……小型ゴーレムが数体現れてわっせっわっせとどこかに運んで行った。その内一体が箱のようなものをこちらに差し出してくる。
「え?くれるのですか?」
ラタン姉がそう尋ねるとこくこくと頷き、僕達の目の前において一礼した。その後他の個体を追いかけ、どこかへと消えていく。……もしかして僕達は勝ったのか?そして、これは戦利品ということでいいのだろうか。
「おっきかったけど存外何とかなるものですね……この箱、私が開けてもいいですか?」
スズちゃんがそういいながら箱に近寄る。罠とかないだろうか不安になったものの、何事もなく開けてみせるスズちゃんをみるとどうやら何も仕掛けられていないようだった。
中には直径20センチほどの紅い魔晶石の球が入っていた。これは、火属性のものだろうか?大きさといい、色合いといいなかなか価値のあるものだ。
しかし、小型ゴーレムが何故これをわざわざくれたのかはよくわからなかった。仲間、というか親玉みたいな存在を倒されたというのに敵に塩を送る真似をする意味は何だろうか。これをやるからこれ以上進むな、という意味なのかはたまた……
「キルヴィ、ひとまずここで休憩するとしてどうしますか?このまま進みますか?それとも諦めますか?」
ラタン姉が聞いてくる。
「いや、まだまだ先もあるし僕達は消耗ほとんどしていない。休息を挟んでからもう少し進んでみよう?」
「わかりましたのです。クロム、スズ、休憩しましょう」
瓦礫のないところに腰を落ち着け、しばしの休息をとったのだった。