探索開始
いつもありがとうございます
「うーん、竜の肉は美味しいと聞いてたけど……こんなんじゃ私はいつか食べたランスボアの方が好きだなぁ」
スズちゃんが竜の尻尾の部分を火にかざしながらそんなことを言う。火を通そうにも未だに耐性が残っているため、頑張っても生焼けにしかならないのだ。そのため血の風味が強く感じられ、スズちゃんにとってはそこまでな味に感じられているようだ。ちなみに、味としては鳥肉に近い。
「キルヴィ、骨にも火の耐性があるからいつもみたいに炙って即乾燥させるってことができそうにないね。竜の骨棍棒作成は自然乾燥に任せるしかなさそうだよ」
クロムにそう言われ、僕はほんのちょっぴり落ち込む。ダンジョンに潜るに当たって新装備として試してみたかったんだけどなぁ。仕方がないのでいつも通りのランスボアの棍棒でいくか。
「火の耐性がここまで強いのならば保険のために竜の鱗を今の衣類につけておきましょうか。ボクは盾の表面にも使わせてもらいます」
ラタン姉がそういって、剥いだ鱗を服に縫い付けていく。なるほど、完全無効とまではいかないが防火効果になるか。クロムの剣以外に対して十分な防御力を持ち、鱗だからそんなに重くもない。これは良い素材だ。
「さて、十分休息も挟めましたし進みますか?馬車は……入り口からしてそんなに大きくないので置いていくしかないでしょうね。脅威なのはもう仕留めてしまったので、最低限守る程度のものにしましょう。いけますかキルヴィ様?」
スズちゃんの言葉に僕は頷く。障害物設置で洞窟の入り口を範囲に入れながら小屋を形成する。貰った当初は驚いて暴れていた馬達も今ではすっかり慣れたものだ。手綱を固定し、魔法陣で近くに湧き水を設置、大人しく待っていてくれるようお願いをすると、わかったとでも言うように嘶く。うん、いい子達だ。
馬車の中に持っていかないものを入れ、ロープ、袋、念のための松明と数日分の食料を手に洞窟を覗き込む。入り口に小屋を被せたので光が遮られ、一筋の光も通さないそこはさながら地獄への門のようだった。
「キルヴィ、頼りにしてるのです」
ランタンに明かりを灯したラタン姉に肩を叩かれる。洞窟内のナビゲートはMAPを持つ僕の仕事だ。僕がしくじれば皆を危険な目に合わせることになる。責任重大だ。有効範囲をいつもの広域から500メートルほどの狭いものに変え、些細な違和感にも気がつくほど集中できるようにしよう。
先頭からラタン姉、僕、スズちゃん、殿をクロムといった順に並んで進む。足元を、入り口に被さっていた石の魔法生物が右往左往としている以外は特になんの変わりもない道が続く。この辺には罠はないようだ。
「キルヴィ、この先はどんな感じなんですか?」
歩調をずらし、僕と並んでそう尋ねてくるラタン姉。MAPによるとあと少しで自然な岩肌の場所を抜け、人工的な、整えられた石の通路に変わるようだ。それに伴い、落とし穴や毒矢が飛び出るスイッチ、見えにくい、刃がついた鋼鉄製の糸など危険な仕掛けがあちこちに仕掛けられている。
「少し先から罠がある地帯に変わるみたい。皆気をつけて、入り口みたいに魔法生物が偽装していたら判断を誤るかもしれないから」
「わかりましたのです。引き続き、警戒して進むのでその地点になったら教えて欲しいのです」
やがて灯りに照らされ、目視で地形が変わったことを皆も感じ取れるようになった。先ほどの会話を聞いているため油断することなく進む。
……少し先に鋭利な鋼鉄製の糸が足元に張り巡らされている。気がつかなかったら足が切断されていたところだ。ラタン姉を呼び止め、その事を伝える。
「どうしましょうか?排除できますか?」
手持ちの安物ナイフで切れないか試みたものの、成功率表示が異様に低かった。それでもとやってみたら逆にナイフの刃がかけてしまった。どうやらすごく頑丈のようだ。
「クロム、さっきの剣できれないか試してくれないかな?」
「私のこのドラゴンキラーに任せてくれ」
冗談めかしながら剣を抜き、狙いを定めるクロム。そして、勢いよく断ち切る。一本残らず切ることができた。魔晶石の剣をよく観察すると、剣の刃先からうっすらと魔力が出ているようで、これが斬れ味のもとのようだ。
「さあ、進みましょう……この鉄鋼糸って使えますかね?持って行こうかな」
そういって手を切らないように気をつけながら糸を回収していく。確かに設置系の罠としても使えそうだし、頑丈だから他にも使い道は幾らかありそうだ。
その先、僕達は罠に気をつけながら……途中にあった毒矢がでるトラップで矢を何回も回収したりもしながら先に進んだのだった。そして、いくつもの道へと続く広い場所に出る。
「ギギギギ……」
そこにはMAPには写らない、石の魔法生物の親玉みたいなのが部屋の真ん中に陣取っていた。