ドラゴンスレイヤー
まだまだ回想が続きます
まずは様子見として遠距離からの攻撃だ。土魔法で手元に石を生成し、ばら撒くように投石を行う。MAPによると成功確率は9割以上だし少なくとも1つはあたりはするだろう。
飛竜はその攻撃を見ると飛びながら横方向に一回転する。その回転の力で威力が殺され、投石は弾かれたようだった。それを見てクロムが信じられないといったように叫ぶ。
「馬鹿な、かつて敵将をも退けたキルヴィの投石だぞ!?それを一目見ていとも簡単に無力化するなんて……これが、竜」
様子見の投石に対してちょっとオーバーすぎるリアクションじゃないかな……信頼されてるのはわかるが、過度に期待されるというのもちょっと困ってしまう。
しかし、どうしたものか。現在の距離では僕達のできる攻撃手段は僕の投石くらいだったのだが……一か八か直接魔法を放ってみるか?それとも数を増やす?質を変える?1人でそう思っていたら飛竜は口を開き、大きな火球をこちらに向けて吐き飛ばしてきた。前に土の壁を展開し危なげなく対処する。相手は待ってくれる気はないようだ。
「火属性の相手ではボクもスズも攻撃面では効果は見込めないと思います……閃光か、暗闇でのサポートはできると思いますが」
「今ので大体の火の強さはわかりました。あれなら中和できると思いますので防御は任せてくださいキルヴィ様」
火属性中心の魔法構成である2人は自分のすべきことを瞬時に判断し、僕にそう伝えてくる。
「わかった。火に対しての防御はスズちゃんに任せる!ラタン姉、前方に向かって閃光お願い!クロムはあの剣を構えていつでも攻撃できるように待機」
その言葉とともにラタン姉の方から魔法が飛んでいく。竜が何が来ようとも弾こうとそれに意識を集中させた時、世界が白に染まる。ラタン姉によって闇のヴェールが僕達の前に展開されていなければ目がしばらく使い物にならなくなるだろう強烈な閃光弾だ。注目していた飛竜はたまらず僕達の目の前に落ちてくる。馬達が驚き嘶くが、我慢してもらいたい。
「次、頼むよクロム!」
クロムが駆け出す。その手には緑に輝く剣。もがいている竜の翼めがけ、剣が通った跡を緑の線が走るほどの勢いで振り抜いた。スパンッと軽快な音とともに片翼が切り落とされる。
……うん?剣が弾かれるか、よくて小さな切り傷くらいかと思っていたんだけど、なんかすんなりと切れたぞ?同じことをクロムも感じているのか首を傾げつつ、翼をもがれたことで血を撒き散らしながらも一層激しくもがく飛竜の動きに注意しながらこちらへと戻ってくる。
「キルヴィ、さっきの脅威度高いのって本当にこいつだったのかな?切るのにほとんど抵抗なく切断できたんだけど」
「そのはずなんだけど……いや、もしかしたら再生能力が高いとかかもしれない!ほら、MAPでも相変わら、ず?」
巻物に写しながら説明しようとしたら、目の前にいる飛竜を表しているマークがみるみる縮んでいき、脅威度がガクンと下がっていくのがわかった。血が流れすぎたのか、飛竜はそのうちビクビクとした痙攣反応を示したかと思うとそのまま動かなくなった。同時にMAPからも表示が消えていく。
脅威度が高いと皆で警戒していたために、飛竜のあっけない死はその場になんとなく気まずい雰囲気を作り出す。
「く、クロムはドラゴンスレイヤーなのです!誇っていいと思いますです!」
そんな雰囲気をどうにかしようと思ったのだろう、ラタン姉が手を合わせて上目遣いになりながらクロムにそう言った。
「そ、そうそう!いやー、お兄ちゃんの竜殺し!偉大な兄を持つと妹は大変なんだよー?」
スズちゃんもそれに乗っかる。そのまま2人でクロムを持て囃す手拍子が始まった。しきりにスズちゃんがクロムにアイコンタクトを図っている。それを察して、クロムは剣を高らかに掲げると
「私はドラゴンスレイヤーになったクロムだ!いかなる敵が来ようとも退けてみせる!」
と高らかに宣言をしたのだった。
ありがとう皆。これが皆なりのフォローだってわかっているからなおさら情けなさやら恥ずかしさやらといった色々なものが胸にくるものの、そこまでやらせたのに落ち込んでいてはいけない。僕もクロムを持て囃すのだった。
「ちょ、ちょーっと待って。うん」
うん?
◇回想中断◇
回想の途中でイブキさんから待ってくれと言われ、僕たちは説明を中断した。
「イブキさんどうしました?ここから僕達はダンジョンに入る話に繋がっていくんですが……」
「しれっと冗談みたいに軽く流しているけど本当に飛竜を倒したの?それもあっさりと!?」
まるで信じられないといった風にイブキさんは身振りで表現するが、冗談も何もそう説明したばかりなので皆で頷く。
「飛竜っていったら上位モンスターよ?その鱗は剛弓をも無効化し、どんなに切れ味の良い剣ですら、かすり傷1つつかないことで有名なのに……キルヴィ君の投石が受け流されるのは理解できる、納得できるんだけど後半のその判断力はなんなの?」
「あー、確かにナイフで解体するときには全然開けなくて苦労したかも。最終的にお兄ちゃんが剣を使って皮とか剥いでたけど」
「竜を解体……名人レベルの職人じゃなきゃ手が出せない領域なのに。お姉さん皆の逞しさ少し舐めてたわ。キルヴィ君だけじゃなくて皆凄いのね。ちなみにその、解体したものはどうしたの?」
「鱗とか骨とか、爪とか牙とかはあまりかさばらなかったので剥ぎ取りました。けど後は持ちきれなかったので肉は食べて、ほとんど捨ててきましたね」
「捨てた……竜の素材を……高価なのに」
その言葉にイブキさんはついに頭を抱えてしまったのだった。血とか内臓とかって高価だったのか。ちょっと勿体無かったかもしれない。
「ご、ごめんなさい。続きをどうぞ?」
頭を抱えたまま、イブキさんは僕達の話の続きを促した。たしか、それから……