僕達の話
回想に突入していきます
「さっき出されたワーテルゾーイ?という料理は凄いですね!スープと聞いて侮っていましたがなかなか濃厚な味わいですよ」
「その味がノーラの伝統的な味だそうですよ」
「あのハンバーグに似た料理はとても美味しかったのです!あれなんて言いましたっけ?」
「フリカデレですね、この肉っぽさ……ライカンス主体の国であるドゥーチェらしさがよく出ています」
「お菓子美味しかったですー!」
「あのお菓子はルベストのとある姉妹の失敗から作られたというまさに奇跡の味ですね。果実の旨味がギュッと濃縮されていてそれでいて舌触りもいい。美味しいって言葉では物足りないくらいです」
「お菓子だとテンションが違う!?」
今僕達はイブキさんお勧めの店からの帰りだ。出されたのは各国の郷土料理とも呼べるもの。物珍しさから色々と頼んでみた結果、それぞれ満足のいく食事をとることができたようだった。
店を出る時にお代を支払おうとすると、入店時にイブキさんにすでに支払って貰っているとオーナーさんに断られた。一緒に行動してたのにいったいいつの間に……
「やー、満足。美味しいものを食べるために私は生きているといっても過言ではないように思っちゃうなあ」
当の本人は素知らぬ顔でそんなことを言っている。……さりげない気遣いができて、話もちゃんと聞いてくれるイブキさんは普通に素敵な人だと思う。それだけならば世の男性がほかっておくはずがないと思うが、多分あの症状の時との二面性にギャップを覚えてしまってなかなか理解されないのではないだろうか。ナギさんとの差があるとすれば多分そこだと思う。
「さ、キルヴィ君!今度はあなた達の旅の話を聞かせて欲しいなぁ」
食後、宿に戻りながらイブキさんがそう尋ねてくる。
「あれ、手紙で逐一報告はしてたはずなんですけど……もしかして、届いてなかったりしてますか?」
「ああ、届いてるよ。届いてるんだけど、お父さんが大まかな内容だけ口で説明してその後はいつも大事に抱え込んじゃってて……それに、せっかく今会えてるんだし直接聞きたいっていうのもあるかな?」
ツムジさんの意外な一面を知ってしまった。しかし、そういうものか。そういえば記憶の中で母さんもラタン姉にそんなことを言ってたような気がする。
「そうですね、では何からお話すればいいものか……なんか面白そうな話ってあったっけ?」
皆に尋ねてみる。少し考えてからクロムがポンと手を叩く。
「竜の渓谷の冒険とかいいんじゃないかな?私達が、始めてダンジョンに挑戦したことだし」
「えっ、竜の渓谷ってあの、グリア公国の中でも毎年死傷者が絶えない険しい場所だよね!?そんなところまで行ったの?グリア公国まで国境を越えて行ったのはお父さんから聞いてたけど、そんな危ないところまで行ったなんて言わなかったよ?」
イブキさんが少し青ざめた顔でそう言う。言うほど危なかったかな?行った感じそこまで危険を感じなかったんだけどな……
「ん?ちょっと待って、以前竜の渓谷に行ったっていう冒険者にスフェンであったけど、その人の話じゃダンジョンなんかなかったはず……」
イブキさんって情報網広いなぁと思う。そんなイブキさんでも僕達が行ったあのダンジョンは知らなかったようだ。
「あー、イブキさん。キルヴィの能力を甘く見ちゃダメです。地形に関しては私、キルヴィの隣に並ぶ人なんかいないと思いますから」
「あー、そういえば昔からなんか知覚?ずば抜けてたっけねー」
真面目な顔でクロムがそう言ったものだからイブキさんがウンウンと頷きながらそう相槌を打つ。僕についての身内からの評価はなんだか恥ずかしくなってくるので、先に進めよう。
「はいはい、竜の渓谷の話に戻すよ!あれは2年前の夏の話だったね……」
◇回想◇
「あーづーいーのーでーすー」
「ラタンさん抱きつかないでよー。余計暑くなるじゃんか……」
馬車の中にいる2人のそんなやりとりが聞こえる。僕達は夏の暑い日差しに焼かれ、ダラダラと汗をかきながらも旅を続けていた。
「キルヴィ、すまないがまた水を頼む。こう暑いと馬がもたないよ……」
自身もぐったりとしながらクロムがそう話しかけてくる。僕は無言で水生成のスクロールを近くに設置した。途端に冷たい水が湧き出す。馬達はその水を見ると嬉しそうに寄っていく。
「水、水なのです!キルヴィがやってくれました!」
「ありがとうございますキルヴィ様!」
水の気配を感じたのかバタバタと薄着の2人が出てきた。慌てて目をそらす。昔はそれこそ裸を見てもなんとも感じなかったが、今は目に毒である。2人は特に気にもせず水浴びを始めたようだった。気持ちの問題で視界を遮るように土の壁を立てる。
ふぅ、とため息をつくと隣でクロムが苦笑している。こんな僕の男心がわかるのはクロムくらいだ。拳をコツンと合わせる。
「あと少しで竜の渓谷に着くよ、だからもう少し頑張ろう!」
MAPで見るまでもなく、眼前には険しい渓谷が広がっているのであった。