謎
いつもありがとうございます。
はたしてイベリ王国は何を考えているのでしょうか…
「その話、もっと詳しく教えてください!」
スフェンの町での戦争を経験した手前、すぐには納得できない。詳細を聞こうと身を乗り出す。勢いあまって机を乗り越えてしまい、イブキさんへ頭から突っ込んでしまう。ムギュウ。
「まあ、積極的。お姉さん本気にしてもいいかなぁ?」
イブキさんがはそう言いながらも僕がちゃんと座れるように手伝ってくれる。身の危険なのではと考えていた自分がちょっと恥ずかしい。
「すみません、ありがとうございます。それで、さっきの話は本当なんですか?」
改めて聞きなおしてみる。イブキさんはそうねぇ、私が知ってることなんて少ないけれどと前置きをしてから知っていることを話し始めてくれた。
なんでも、戦争を仕掛けた側であるイベリ王国が停戦協定を持ち出したらしく、多額の賠償金と街のいくつかを条件にルベスト側は承諾。さらにイベリ王国は海路を使ってノーラ首長国に同盟を持ちかけ、こちらもお金を積むことで締結されたという。手のひら返しの上大盤振る舞いに思えるが、いったい何があったというのか?何か裏があるように思えてならない。
「素直には喜べないですよね……勝手に仕掛けて来たくせに、自分の都合で戦争をやめましょうって。それじゃあ戦争で家族を亡くした人達が納得できませんよ」
クロムがどこか悲痛な色を帯びた顔でそう呟く。クロム達のお父さんも、イベリ王国との戦争で亡くなった人の1人だからだろう。何よりも自分自身が納得できていないのだ。
「納得しようがしまいが、国の代表が決めたことだから兵は従うしかないってラドンのおじ様は言ってました。少なくとも今この時点での平穏が約束されるのであれば、それはそれでいいことなのだと思うとも」
イブキさんがそう続ける。これ以上戦火が広がらないのであれば、それは確かにいいことなのだろう。だが、いつ日々の安寧を崩されるかもわからないこの状態をはたして本当の平穏と呼べるのだろうか?
「……国に雇われている兵士はそんなものだと思います。それでも納得できない人は多いですよね?国内で反発は起きてないのですか?」
ラタン姉はそうイブキさんに尋ねる。
「小規模ながら起きてますよ。前線にいた兵は不満から暴徒に化した国民の鎮圧に動いている状態です。スフェンの町にはそこまで影響がないみたいですけどね」
なにが悲しくて同じ気持ちの自分の国の民を鎮圧しなくてはならないのか……僕が兵士ならそんな風に思うだろう。聞けば聞くほど、危ういようである。もし、これが計られたものであるならば……
いや、さすがに考えすぎだと思おう。どういった理由であっても一般人である僕ではどうしようもないし。気持ちと一緒に話題を切り替えよう。
「そういえば、イブキさんはこのアムストルでなにをしているんです?やっぱり、商品開拓のためなんですかね?」
我ながら強引な話題替えに対して、イブキさんは指で髪の毛をくるくるとしながら協力してくれた。
「ん、そうだねー。それがメインの理由。でも、ここの人柄ってニニさん達みたいな優しい人が多いから、それに惹かれてって所もあるかな?あとは景色もいいしね」
「人が優しく、食べ物もお墨付き。おまけに景色がいいというのであれば……確かに、ここって魅力的な所ですね」
そう言ったのはスズちゃんだ。
「せっかく食に詳しいイブキさんに会えたので、できればお勧めを聞きたい所です」
「嬉しい、あの頃はなかなか仲良くなれなかったスズちゃんと私、いまお話しできてるのね……仲良くしましょうね?それはそれとして、私のお勧めは〜」
そこからはイブキさんによる、アムストルのグルメ講座が行われたのだった。中でも一押しの店があるということなので、この後に行こうという話になるとニニさんがやってきた。いつの間にか結構時間が過ぎ去っていたようだ。周りも人がまばらになっている。
「や!お待たせー。とりあえずあなた達用に3部屋抑えておいたけど男女2-2とイブキさんとかそんな感じでいいかなー?」
ニニさんがそういって首を傾げてみせる。外見が猫のライカンスなのでかは知らないがとても愛らしく、撫で回したいと感じてしまった。いかんいかん、失礼だろ、僕!
「わざわざすみません、ニニさん。昔からの知人なので私も彼らと同じ部屋割りに含んでもらっていいですか?」
返答をしたのはイブキさんだった。そういえばニニさん、イブキさんと名前を呼び合うくらいの仲なのか。イブキさんは順調にコネを各地に作っていっているようだ。孫も生まれたそうだし、ツムジさんのところは安泰だなぁ。
「んー、部屋待ちの人がいるくらいだからそうしてもらえるとありがたいかなー?あなた達もそれでいいー?」
皆の顔を見渡すとこくこくと頷く。それで良いらしい。返事をニニさんにすると、鍵を2つ渡され、部屋の位置を教えてくれた。
「馬車は裏の厩に置くことになるから、貴重品はちゃんと身につけておいてねー?馬車が誰のかまではわかるけど、その中身までは判断できないから……」
「何から何までありがとうございます。お世話になります」
頭を下げると、じゃあ何かあったら呼んでねー?とニニさんは立ち去っていった。
きて初日だが、僕もこの町が好きになれそうだ。