思わぬ再会
「町に防壁がない理由ー?そりゃあこの町には軍事不介入、不可侵の条約が結ばれてるからですわ」
手持ちの換金できるものや高く買い取ってもらえるものをお金へと換えて貰いながらこの町について尋ねていると、トトさんはそう答えてくれた。
「軍事不介入?不可侵の条約?」
聞き慣れない言葉に思わず聞き返すとトトさんとニニさんは顔を見合わせて、頷きあう。トトさんが口を開いた。
「あらまー、知らんかね?ここ、アムストルは西をルベスト人民共和国、東をドゥーチェ帝国、うっすらと見えるあの半島越しに北をノーラ首長国がという3つの国の国境上に位置しているんだけども、こんな辺鄙なところにある故に果たしてどの国に属しているかわからなくなってな?各国のお偉様方が会合を開いて、どの国の統治のものでもない場所だから兵隊さんも入ることは許さぬと決めたわけさー。つまりは法の壁に守られてるってわけなんよ。俺が生まれる前からだから、かれこれ25年は争いもなく、平和そのものさ」
続いて、トトさんの言葉を引き継いでニニさんが説明をしてくれるようだ。
「軍事介入ができない三国間の同盟が理由だからって町の代表に自治権が認められてね。まぁ平たく言えば何か起きても自分の身は自分で守れってことなんだけどー。この町を通れば国境が楽々越えられるとある時商人達がお金を出し合って、自警団を作ったんだ。自警団のおかげで治安もいいのー」
なんと、国境のまさに境目だと言うのに25年も平和だとは……この人達の人柄はもしかしたらそんな平和な町のあり方から作られたのかもしれない。
「素敵な町なんですね……ツムジさんが来たら喜びそうなところだなぁ」
そう呟くと、ニニさんが何やら宿泊帳簿を開く。どうやらツムジという名前に心当たりがあったようだ。そして、あるページまで来るとそのページを見せてくる。記憶にあるツムジさんの字癖で名前が書かれていた。
「今スフェンの町を中心に活動してるソヨカゼ商会の会長さんだねー?5年前に来てるよー。会長さん自身はその1回だけだけど、その娘さんならたまに来てるよー?」
なんと。ここからスフェンの町まではだいぶ距離があるというのにこんなところまでツムジさんは来たことがあったというのか。思ったよりもツムジさんの行動範囲は広かったようだ。
「物の流通がすごいところだからねー。確か、珍しい本とか書物を探して来てたはずだよー?結局見つけられなかったのか肩をおとして帰って行ったけどねー」
探し物と時期を聞いてついこの間見た夢を思い出してしまう。つまりツムジさんはあの本手に入れるのにこんなところまで探しに来ていたのか。成果こそ得られなかったもののその救いたいという信念に感謝を覚える。この旅のこともそうだが、あの人にはとても足を向けて眠ることができない。
しかし、聞いた話通りならイブキさんかナギさん、もしくは両方が時々とはいえこの町に来ていることになるのか。ツムジさんの家を出たあの時以来ご無沙汰しているが、今も元気にしているだろうか?
そんなことを考えていると背中側、店の出入り口から勢いよく何かが襲いかかってきた。衝撃によって吹っ飛びそうになるのを踏ん張ってこらえる。くそ、MAPには何も反応がなかったぞ?まさかこの間のアンデットに討ち漏らしでもいたか?
その時、襲撃者から声が漏れ出る。
「あああ、懐かしい、懐かしいよ、この匂い私が間違えるわけない!これは間違いなくキルヴィ君!……よね?」
うん……なんというか、正直な話声とかMAPに今更表示されてる点とかでもう誰かはわかってはいる。わかってはいるけどそんな狙ったかのようなタイミングで会えるわけないと頭が否定しているんだ。
視界の端で苦笑いをしている仲間に対して助けを求める視線を送る。すっと目を逸らされた、ちくしょう。
「すっかり大きく、逞しくなって。大人っぽくなって素敵!……でもまだちゃんと年相応の可愛さは残ってるみたいでそれも素敵!ルックスに関していうならば記憶の中のウル君と同じか、それ以上かも!気配りとかは当時から良かったし、まさに優良物件よねー!私を貰ってくれないかしら、なんて!……あ、もしかして私のことを覚えてないかも……いやいや、キルヴィ君に限ってそんなことはないはず!……ね?私のことわかるよね?わかるでしょ?わかるといってくれるよね?」
なんか記憶にあるよりも病気が悪化してる気がするんだけど。いつの間にかラタン姉の早口でまくしたてるのをラーニングしていてより凶悪になった気配がしてるんだけど。
うわあ……とか遠くでラタン姉が引いてるけど多分あなたの影響受けてますからね?いや、それよりも助けてほしい。
「さあ、私の名前を言ってみて!早く、早く!ハリー!時間は待ってくれないよ!私だっていつまでも待ってない……いや、私は待つ!いつか貰ってくれるまでちゃんと待つから、ね?ね?」
「……お久しぶりですイブキさん」
「わお!間違えなかったね、正解正解大正解ー!お姉ちゃん花マルあげちゃう!」
そこに居たのはまさしく浮かれきった大人のお姉さんといった雰囲気のイブキさんだった。