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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
1区画目 幼少期
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春の思い出 後編

この話は後編です。前話を見てからご覧ください

 仕事の最中でも手軽につまめる軽食をいくつか作る。相変わらずクロムの手際は鮮やかで、今食材に何があるかを確かめたらあっという間に作り上げていく。解体こそできるが料理はほとんどしてこなかったので僕も見習いたいところだ。


「じゃあ、これ持って行こうか」


 できたものを大型のトレーに乗せながらクロムは言う。結局手伝えなかったので、これくらいは自分が運びたいと言うと持たせてはくれたが使用人に任せればいいんだよと苦笑された。


 ツムジさん達の方へ戻るといつの間にか山のように積まれた書類があった。ペンが紙の上を走る音が大きく聞こえるほど、全員黙々と仕事をしている。


 声をかけようとしたが、クロムに止められる。そして、空いているところを指をさし、そこに置くようにジェスチャーをした。指示されたところに音を立てないように静かに置いたら途端に全員から手が伸びてきた。気がついてはいるようだ。


「や、すまない。ちょうどお腹が空いてきてたところでね……助かった」


 あっという間に皿が空になる。そこでようやくツムジさんが手を止め、こちらをみてそう言う。クロムは恭しく一礼をした。


「ふむ、使用人として静かに主人を裏から支える姿勢……ここにきた時はやんちゃだったクロムが成長したものだ」


「お褒めいただきありがとうございます。まだまだ精進させていただきます」


「ここでは客だと以前行ったにも関わらず、すまないな。キルヴィ君ももてなしができなくてすまない。……そうだ、これで買い物にでも行ってきなさい」


 そう言って、懐から金貨を1枚取り出して僕に渡してきた。ポンと渡された金額に思わずクロムが噴き出す。


「これはお詫びの気持ちとアンジュ様達へのお土産代金も含んでいる。俺達は選びにいく時間がないからね……いや、やはりイブキ!手を止めて2人について行きなさい。お菓子系の流行に詳しいお前がついて行った方がお土産に困らないだろう」


「承りました、お父さん」


 買い物にはイブキさんがついてくることになった。少し苦手ではあるが、お菓子系に詳しいのであれば確かについてきてもらった方が助かるだろう。ラタン姉達が喜びそうなものを選びたいし。


「ぶー、お姉ちゃんズルい。ちゃんと家の名に恥じない、良いものを選んでね」


 ついていけないナギさんは手を動かしたままそんな不平を嘆いていた。


「ごめんねナギちゃん、得意分野の差だから」


 良い笑顔でガッツポーズをしながらそう言ってみせるイブキさん。そこに申し訳なさは感じられなかった。……うん、本当に任せて良いのか不安になってきた。そんな顔を見てツムジさんが苦笑する。


「心配かもしれんが、ことお菓子系となればイブキは確かだぞ。以前ラタン姉と回った店はイブキのリサーチからだからね」


 そう言われては返す言葉はない。あの時回った店はどこも美味しかった。最も、不安なのは別の要素ではあるが。


「じゃあ、行きますよ!」


 鼻息を少し荒げながらイブキさんは僕達の手を引くのであった。


 改めて見るスフェンの町はだいぶ元通りとなっていた。


「こうして私だけと話すのは初めてかな。いつもごめんね?迷惑してるってわかっているんだけど、欲が抑えられなくて……」


 先頭を歩きながらイブキさんは僕達に謝った。うーむ?さっきも思ったけど、この姉妹性格が似ていると思っていたんだけど結構差があるみたいだ。こうして改めて見るとイブキさんはおとなしめの印象だった。いつものテンションについてはナギさんに引っ張られてる部分が大きそうだ。


 手早く買い物をこなす。お土産としては日持ちしてなおかつ美味しいものを選んで形となった。色も鮮やかで、食欲をそそる。これならおそらく皆も気にいるだろう。


 さて、流石は金貨だ。なんともない……と言うわけではないがまだまだ余裕がある。いつもの通りを見て回ろうと言うと、2人とも頷いてくれた。


「そういえば、得意分野が違うって言ってましたけどナギさんは何を得意としてるんですか?」


 すっかり打ち解けたのでイブキさんにそんなことを聞いてみる。


「ナギちゃんはねー、服飾関係が得意なんだ。かわいい小物とか選ばせると我が家で1番センスがいいかな」


 なるほど。2人とも女性らしい分野が得意らしい。しかし小物か……リボンとか買って帰ったら喜ぶだろうか?クロムに聞いてみると、きっと喜びますと答えられる。そうか、喜んでもらえるなら……僕は気になった露店をのぞいたのだった。


 さて、到着から1日半が経ち、ツムジさんは町での仕事というのも滞りなく済ませたようだった。あとは任せるとツムジさんは信頼のおける部下に告げると、馬車を出す。


 僕は案内と即席小屋の設置をすることで道中の安全を提供し、なんとか次の日の昼には屋敷までたどり着くことができたのだった。予定よりも早く動けた。


「あらあら、無理をさせたかね……ツムジ、ヒカタさん、イブキちゃん達も。ワガママ言ってしまってごめんなさいね」


 屋敷についた僕達に母さんはそう謝る。


「とんでもないです!昔みたいにまたここに来られて良かったです」


 ヒカタさんがそう答える。イブキさんもナギさんもその言葉に同意して頷いた。


「お疲れでしょう?今日は休んで、明日の朝から行くことにしましょう?」


 母さんがそう提案する。化粧で隠してはいるがヒカタさんの目の下にクマがあるのをおそらく見抜いたのだろう。その申し出をツムジさん達は少し考えてから照れ臭そうに受け入れたのだった。


 キルヴィ、とクロムにつつかれる。そうだったそうだった、忘れるところだった。


「母さん達、これお土産。お菓子はイブキさんが選んだ奴だから期待していいよ。それから……これは僕が選んだからどうかわからないけど」


 そういって紙袋を母さん達に渡す。


「お菓子は今みんなで食べようかね。それから……これは何かしらねぇ?キルヴィ、開けてもいいかい?」


 母さんの言葉に頷く。3人は包みを開けて破顔した。


「これは、可愛らしいリボンだねぇ!キルヴィ、それからクロムもありがとう」


「いいセンスなのです!色もボク達に合わせたものにしてくれたのですね!」


「スズ、これ大切に使います!ありがとうございます!」


 こそばゆい気持ちになり、クロムと身悶えする。それを見てイブキさん達が鼻息を荒げていたがもうあれは病気であると僕は割り切る事にしたので前ほどの苦手意識はなくなっていた。


 次の日の朝、屋敷を出て向かったのはなんとラタン姉と出会った小高い丘だった。そこには色とりどりの花が咲き誇っていて、思わず目が奪われる。中でも、丘の途中に立っている木にはピンク色の綺麗で、だけど儚い印象を受ける花が咲いていた。


 美しい景色の中、食事を持ち合いながら行われるお花見はとても楽しいものだった。


「また、来年もやりたいね!」


 思わずそう言うと、アンジュ母さんはそうだねぇと僕に優しく微笑んでみせたのだった。


 ……少し悲しそうに見えたのは多分僕の気のせいだろう。

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