認可
「えっと、ラタンさんでよろしいのでしょうか」
「その通りなのです。ボクは夜灯の精霊のラタンと言います。精霊といっても駆け出しなのですが」
そう言いながらラタンは手に持っているランタンをずいっとこちらに向けてくる。ランタンを照らしたことで、透明化を解除したのか彼女の姿が透けることなく見えるようになる。
明るいオレンジで三日月を模した飾りを使って左へサイドテールにまとめている髪、赤い瞳、幼さと柔らかな印象を受ける顔、身長は6歳のキルヴィよりは高いが大人を見上げるほどの高さではなく、自分の集落にいた12歳くらいの少女と似た背格好にみえる。服装はその髪色に似合わずおとなし目の色合いであり、なんとなく夜空を連想させる色合いをしていた。
「ふむふむ、キルヴィ君はやはり小さいです。青みがかった髪色に澄んだ水のような瞳をしています。……本当に族長の子供だったのかと言いたくなるほどに身なりがその、貧しいですが」
同じようにラタンさんも僕のことを観察していたようだ。思ったことが口をついて出てきたらしく、この格好はできれば早くなんとかした方がいい印象のようだ。……たしかにほとんどボロ布一枚だからどうにかしたいが、これが僕の一張羅である。
「……ラタンさんはメの血族を知っていますか?」
「たしかこの森に住むアードナーの一族でしたかね?額に第三の目という結晶があるって噂の」
「僕がそのメの血族なんです」
「ほえ?でも額に第三の目が……あぁ」
「その通りです。僕は第三の目を備えて生まれて来なかった、誇りなき忌子なのです。親ですらあまり関わりたくない存在故にあの二択を迫られたのです。口減らしの名目で」
その言葉にラタンさんは信じられないとばかりに目を見開き、怒りの表情を見せた。
「そんなの!……そんなのってないのです!キルヴィ君は何も悪くないじゃないですか!ただ、目を持たなかっただけで実の子供でも害せるなんて、やっぱりおかしいのです!」
「やさしいのですね、ラタンさんは。今知ったばかりの僕のことでそんなにも憤ってくれるなんて」
ラタンさんは泣いていた。
僕の境遇を聞いて泣いてくれていた。
僕は、僕自身のことなのに泣けなかった。
ただ集落から離れることができる、これで劣等感から解放され自由に生きることができるとしか感じていなかった。
ラタンさんに抱き寄せられる。
「辛かった、苦しかったんですね。でも認められなかったんだよね……いいんですよキルヴィ君。もう無理して我慢しなくていいのです」
感じていなかったはずなのに。
僕はいつの間にか大きな声をあげて泣いていた。
怖かった。悲しかった。切なかった。
でも誰も見てくれなかった。居場所なんかなかった。
誰も認めてくれなかった。自分自身でさえも。
だから拒絶したのだ。敬語を使う、自分なりの精一杯で大人ぶることで何もかもを。強がることで自分のことを。
「ボクが認めてあげるから、キルヴィ君はここにいていいのですよ」
その声を境に、僕は意識を手放した。