とある集落のお話
いつもありがとうございます!今回主人公は出てきません
私は偉大なるアードナー、その中でも特に尊いメ族の族長だ。そんな私だが、今はとあることで頭を抱えていた。
「昨年よりも狩の成果が格段に落ちている……いったい何故だ」
思わず口からもれ出てしまうが、それほどまでに重大な事であった。これは狩人達に聞き込まねばなるまい。早速道行く狩人を見つけたので引き止めてみる。
「これは族長様、本日もご機嫌麗しく」
「いや、引き止めてすまん。実は気になっていることがあるのだが、狩の成果がここのところ落ち込んでいるように見えるのだ。何か、心当たりはないか?」
そう尋ねると、その狩人は少し気まずい感じで目をそらした。その反応を見るに何か知っているのだとあたりをつける。
「いや、別に責めているわけではないのだ。十分にやってくれているのは私も知っていることだからな。ただ、ここの所怪我をするものも多くなっているのも心配なのだ」
狩の成果だけではなく、何人もの狩人が怪我をして帰って来る頻度が多くなった。回復魔法の心得があるから良いのだが、中には治しきれないものもいる。死者も数人出ている始末だ。
「いやぁ、その……実は」
歯切れの悪いこの狩人の話を聞いて私は驚くことになる。昨年の狩の成果、その半分近くをキルヴィが出していたというのだ。確かに狩について遊びに出ていたことは何度もある。そんな時に限って大成功になっていた覚えもある。だが、どうしてあの出来損ないと大成功を繋げることができようか。
「あいつ、あの歳で大人が数人がかりで倒すようなランスボアやロックベア、首狩りウサギなんかも1人でやっちまう強さなんです。あれは俺たちの言いなりになったから、その成果をいつも他の狩人で分配してましたが……」
初耳である。なんの役にもたたぬ、ただ飯ぐらいの出来損ないであると思っていたが、そんな能があったのか。あいつが出て行ってからもう1年は経つ。とうにくたばってしまっているだろう。少し惜しいことをしたと同時に狩の腕が良かったことを族長であり、親である私に黙っていたことに腹がたつ。
「今年の冬の口べらしをどうするかだな……あいつのようなこともあるかもしれないなら、今回は子供からではなく本当に役にたたぬ年寄り連中にご退場願うか」
ぼそりと呟くと、目の前の狩人は突然怒りだした。
「族長それは、あまりにご無体でないですか!つまり、俺たちの親に死ねと言われてるのですか!」
「まぁ、そうなるな」
「あんまりだ!そんなことになるなら俺はここから出て行くぞ!」
これはありがたい。自分から望んで出て行くと立候補をしてくれたのだ。これでこいつの家族の分を考える必要がなくなる。
「結構。ただし食料は置いて行ってもらうぞ。あとは好きにするといい」
「流石に度が過ぎてふざけている!こんなところ、誰が頼まれたって居てやるか!」
その狩人は肩を怒らせて目の前から立ち去って行った。グズめ、これで明日になってもいるようだったら皆の前で晒し者にしてやろう。しかし、これでもまだ不安だ。その時までにもう少しばかり決めておくか。
そんなことを考えていたため、次の日の朝が来た時、私は驚いた。なんと住人の半分近くが姿を消していたのだ。
「何事だ、いったいどういうことだこれは!?」
その時ちょうど、出ていこうとする家族がいたため引き留める。
「おい、なぜ出て行く!族長である私に何も言わずに行くのは許さんぞ!だいたいこんな時期に出たところで冬が越せる当てでもあるのか!?」
その家族を代表して、中年の男が答える。その目は侮蔑の目だった。
「忌み子とはいえ、肉親ですら追放したようなあんたの所にいたらいつ気まぐれに追い出されるかわかったものじゃないのでね。別に族長を立てて他でやっていくよ。この集落はもう終わりさ」
その言葉を聞いて、気がつけば男を殴り飛ばしていた。なんという、なんという身勝手な連中か!今まで仕切ってやったという恩も忘れて他所でやっていくだと。おまけに、集落はもうおしまいとまで言った!いいだろう、行きたいやつは出ていくがいいさ。だがこの集落を終わらせてなるものか!
その意思表示をした所、残ったのは3分の1ほどだった。それも、邪魔だと切り捨てようとした老人、その身内がなかったり足腰が弱いからと残ったものがほとんどだった。まあいいさ。備蓄はたんまりある。残った若い者の家族と私の家族とで次代をなしていけば問題はない。
そうして冬を迎えたのだった。