ラタン姉とグルメ
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「ようやく、ようやくなのですよ!」
目の前を行くラタン姉がはしゃいでいる。それをやれやれといった顔をしながら母さんとツムジさんが追いかけていった。僕も遅れないように続かないと。
ラタン姉がはしゃいでいる理由は簡単だ。ラタン姉がかねてより計画していたグルメ巡りを実行に移そうというのだ。しかも今回はツムジさんが全部お金を出してくれるというので好きなだけ食べれるとも喜んでいた。
……いや、どれだけ食べるつもりなのラタン姉。
「まず表通りにあるアバン食堂で遅めの朝食がてらに暖かい野菜スープをいただきましょう。確か出てくるパンも柔らかくて美味しいんでしたね。で、それを食べたらはす向かいにある喫茶イリーナで美味しいお茶をいただきつつ焼き菓子を食べるのです。口の中でホロホロと溶けていくと評判らしいのでとても楽しみなのですよ。この間見た商店通りにある出店の中にも美味しそうなものを扱っていそうなところがあったのです。売り切れてないといいのですが、まあこれは優先度的にはそこまで高くなくてもいいのです。問題なのはエンドン洋菓子店!ここは絶対に行くのです、いや行くべき、行かないのはなしですよ。珍しい、黒っぽくて少し苦味を感じるもののそれがクセになるフワフワなロールケーキは食べないとダメです!スズちゃんにもお土産を買ってあげたいですね……砂糖菓子で有名なオズ商店で金平糖なる星のような砂糖菓子があったので買いましょう。それからそれからーー」
どう巡るか、どう抑えるかを早口で並び立てていくラタン姉に狂気を感じた。あの早口、なんだか久しぶりに聞いた気がする。母さんとツムジさんが聞いているうちに頭と胃のあたりを押さえている。並んでいたものを頭に浮かべていき、想像だけで胸焼けを起こしているらしかった。
「ストップ。ラタンや、いくつかは次の機会にしてくれないかね?今日はちょっと疲れたよ……」
「え、でも……」
「ラタン姉、アンジュ様は病みあがりなんだから加減してくれよ……またポンコツ姉って呼ばないといけなくなるじゃないか」
「あうあう……」
げっそりした顔の幼馴染2人からそう言われ、ラタン姉はあうあうとしか言えなくなってしまったようだ。いや、悩むところなのかなこれって。ラタン姉にとってはそこまでの執念なのか。
やがて、諦めたのかわかりましたですと呟くが、静かに涙が頬を伝っていた。……泣いた!?今日中に回れないというのは泣くほどなのか。
「……クロム君やスズちゃんが来てから、このメンバーで動くのはすごく久々だったのです。あの2人が嫌いってわけではもちろんありませんよ?でも、ボクにとっての、このメンバーの一周年を記念として思い入れが強い人達と食事を楽しみたいなって思っただけなのです……」
また、ボクは空回りをしてしまったのですねと乾いた笑いをするラタン姉。その言葉を聞いて、僕達3人は気まずそうに顔を見合わせた後にラタン姉に抱きついた。
「ごめんラタン姉。ラタン姉はそんな風に考えていたんだね……!ありがとう」
「食べれるかわからないし一緒にいるだけになるかもしれないが、付き合うから、ね?ラタン?」
「さっき言った中で買って帰るような奴は商会の奴に抑えさせておくから食事を楽しもう?な?ラタン姉」
「みんな……!」
そうして道の真ん中で僕達4人は人の目も気にせずお互いの絆を確かめ合ったのだった。最後にラタン姉の口の端がつり上がっていたように見えたのは多分気のせいだろう。
◇
「そう言えばラタン姉、あの盾はまだ使えそうだった?散々打ち合いに使ってたけど」
アバン食堂でスープを啜りながらそう尋ねてみる。少し音を立ててしまい、母さんから頭を軽くコツンとされた。ごめんなさい、気をつけます。
「あー、打ち合い中に実は盾使用のスキルを手に入れたので、途中からは少し効率よく受け流しができたのです。なのでガタはまだきてないですよ?最も、傷の修復はしとかないといけませんが」
「ならあとで俺に預けてくれ。……そういえばあの武器屋の兄ちゃんの所にまだちゃんとお礼に行ってなかったな。キルヴィ君、この後……は遅くなるか。明日にでも手土産持って行くかい?」
そうだった。今回の戦いでこそ関係なかったかもしれないが売ってしまっていた地図という不穏分子を回収してくれたお礼にまだいけていなかった。お願いしますとツムジさんに答える。
「キルヴィの事も、ラタンの事も守ってくれたってことになるなら私も行かないとねぇ」
母さんはそういって、今度は頭を叩くのではなく軽く撫でる。ちょっとくすぐったい。
「まあでも、そろそろ屋敷に戻る事も考え始めないとねぇ。冬も近いし、長く開けちゃうとどうしても不安だからね」
母さんはそう言う。冬になるという事は母さんの雪魔法でどうにでもなりそうな気はしたが、長く開ける事で万が一屋敷を変な奴に使われていたりしたらと考えるのは確かに不安だった。
「そうですか……また、寂しくなりますね」
ツムジさんがそう言う。その顔は本当に寂しそうに感じた。それに対し母さんはツムジさんの肩を叩く。
「なに、今生の別れではないし今日明日というわけでもないさ。また会えるよ」
「……そうですね!はっはっは、無駄に暗くなってしまって申し訳ないです」
その後はラタン姉の予定の通りにみんなで付いて回ったのだった。