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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
1区画目 幼少期
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意外な縁

気が付けばユニーク5000超えておりました…ありがとうございます!これからも頑張ります!

「エンジュとは、私の母の名前です。ですが、だいぶ前に亡くなっておりますが……母をご存知で?」


 どうやら母さんのお母さんの名前が目の前のリリーさんから出たらしかった。そのリリーさんは母さんからの返事に「やっぱり。そうじゃないかと思いました」と1人頷いていた。


「という事は、あの小さかったアンジュちゃんが貴方なんですね。顔なんかすごくエンジュに似ちゃって……目元はあの人にそっくりになっちゃったみたいだけど」


 どうやらリリーさんとエンジュさんは知古の存在らしく、小さい頃の母さんのことも知っているようだ。……気のせいかもしれないが、あの人といったときに少しだけ怒りを込めたような声に聞こえた。


 だが、リリーさんは見た目がイブキさんやナギさん、本屋のお姉さんと同じか少し上なだけのように見える。見た目通りの年齢であるならば知っているはずがないだろう。


「私からエンジュを奪った事は今でも恨んでいるけれど、アンジュちゃんに命を繋いでくれたことだけは感謝してますよ」


  その発言で母さんはピンときたようだった。……いつの間にかラタン姉が母さんをひしっと抱きしめて少し涙目になりながらもリリーさんを見つめているのはどうしてだろうか。そんなラタン姉の様子にリリーさんは顔の前で手をヒラヒラさせる。


「あなたからアンジュちゃんを取るつもりはないから大丈夫だよ、そこの精霊ちゃん……いや、貴方も名前持ちだったっけ?確かラドンちゃんか」


「ラドンさんはそっちです!ボクはラタンという名前で、アンジュから貰った大切な名前なのです!」


 取らないと聞いて安心して見せたが、名前を間違えられバタバタと手を振りながらラタン姉はそう言う。それに対し、リリーさんは口元に手を当て静かに笑った。笑いながらもラタン姉に謝り始める。


「それはごめんなさい。実は私もね、この名前はエンジュから貰ったの。だから貴方の気持ちはよくわかるわ。その名前をもらった時の気持ちをちゃんと、大切にしなさい……って先輩風ふかさないでも大丈夫そうね」


「もしかして、リリーさんは母と……」


「ええ。私は昔、貴方の母のエンジュと契約を交わしていた戦乙女の精霊、リリーよ。戦乙女の精霊はわかるかしら?戦いに身を寄せる穢れの知らない乙女を保護し、見守る精霊のことよ」


 だから、アンジュちゃんには悪いけどアンジュちゃんのお父さんのことは少しね、と言葉を濁す。言葉にこそしないがリリーさんはどうやら母さんのお父さんにあまりいい感情を持っていないらしい。


 それにしても精霊か。昔母さんとラタン姉に聞いた話だと確かにエンジュさん……勝手ながらおばあちゃんと呼ばせてもらおう。おばあちゃんは精霊に詳しいといっていた覚えがあった。そのおかげでラタン姉は不審者として扱われずに済んだし、こうして長きに渡り母さんと友情を育んでこれたのだ。


 そして、その繋がりがなければ今、僕はこうしてここにいないかもしれなかった。つまりはリリーさんには間接的にだがお世話になったと言える、のかもしれない。気持ちの問題として少し頭を下げておくことにした。


「それで、ラドン兵長。先ほど最終日に天の恵みなのか敵にだけ吹雪が起きたと伝え聞いたが……その理由がわかったよ。あいつに感謝しないといけないことが増えてしまったな」


「は、はっ……?」


 突然話を戻したリリーさんにラドン兵長は喉まで出かかっていた欠伸を噛み殺し、短く返事をするがその返事は若干疑問形になっていた。知らないなら知らないでいい、とリリーさんは笑う。なんだかよく分からない、とラドンさんは首をぽりぽりとかいたのだった。


 ◇

 太陽が真上に達した頃、リリーさんはもうこんな時間かとそれまでしていた話を切り上げた。ちなみにここまで連れてきてくれた兵士さん達はいつの間にか居なくなっていた。……上官に対してもちょっと不敬なのではないかと思うのだけど良いのだろうか?


「それでは、急ぎ軍を西に動かさねばならない為私はここで失礼させていただこう。もちろんここで補修作業を行うように兵の一部を残す。ラドン兵長の指揮に従うよう命令しておくから後のことは任せた。……しかし今日は収穫が多かった。アンジュちゃんの元に将来有望な子もいるようで安心できたよ」


「こちらも、母のことを知っている方に会えて久しぶりに思い返すことができました、ありがとうございます。この子は私の宝です。教えれることは全て教えてあげたい、そう思ってます」


「それは良いことを聞きました。芽吹いたばかりの若き芽が強く育つことを、軍の代表の1人として心待ちにしていますよ。それではいずれまた会いましょう」


 そういって、未だにのびていたあの失礼な兵士の首を掴み、引きずりながらリリーさんは去っていった。門を出て行くその背中を見届け、ラドンさんは急にへなへなと座り込んだ。


「あれが、我が国軍の中で五本の指に入るにリリー中将……なんというか、普通に会話をしただけなのに常に凄まじいプレッシャーを感じたぞ。お二方がなぜ平然と話すことができているか不思議なのですがいやはや、英雄の成せることということですかな?」


 お二方?ふとリリーさんが現れた時から無言であったツムジさんを見ると真っ青な顔になっていた。そういえばラタン姉も、今はそれほどでもないが先ほどのやりとりの時に様子がおかしかった。


 どうやらリリーさんといて、それらしい影響を受けてないのは僕と母さんだけだったらしい。少し存在感が強いなと感じたがそんなにプレッシャーとなるようなものを纏っていたのか、僕は首を傾げたのだった。

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