温度差
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「……本当に失礼な発言ですね、此処がおちればどうなるかという事を理解されていないようで」
ラドンさんは口の端をひくつかせながらそういった。自分の国の町が攻められ、すでにいくつかおとされたというのにこの人はなぜこんな発言ができるのか僕にはわからない。それに対し、相手はやれやれといった仕草をしてみせる。
「仮に此処が重要な場所だとしても、そんなもの、また取り戻せばいいだけのことではないですかな?」
「なっ……貴様正気か!?その結果どれだけの人が犠牲になると思っている!」
何をいったのか理解するまで時間がかかってしまった。場所を取り戻すことは頑張ればできるかもしれないが、失ってしまった命までは取り戻せないだろう。それをわかっていっているのだろうか?
……言葉通り命をかけてでもこの町を守ろうとしてくれた兵士がいたというのに、この人は本当に同じ国の兵士なのかと疑ってしまったほどだ。しかし、僕達のそんな思いを鼻で笑いながらもその兵士は別のことが気に障ったようだった。
「貴様とは、私のことですかな?辺境の田舎兵士がずいぶんと大きな口をたたくようだな!」
よほど気に入らなかったのであろう、威嚇するように大声でそう言う。先ほどから様子を伺っていた門の前にいる皆を含めて剣呑な雰囲気になり、先ほどまで言い合いをしていた2人は両者無言のにらみ合いとなる。そして、ゆっくりと手が腰に伸びていく。
「待った待った!二方とも落ち着きなさい!」
両者が剣のつかへと手をかけようとしたその時、流石に剣を抜きあったらマズいとツムジさんが2人の間に割って入る。そこで、ラドンさんはハッと我に返ったようだった。
「これはツムジ殿……いやはやお見苦しいところをお見せしました」
「ふん、一般人風情が国の正規兵同士のやりとりに口を出してくるとは……やはり辺境の地は蛮人が多いようだな」
「落ち着いて、落ち着いて……」
周りに人がいた事を思い出し、佇まいを整えるラドンさんと対照的にその兵士は悪態を吐く。ツムジさんは笑顔で落ち着いてと繰り返しているものの、付き合いの長さから目の奥が笑っていないあの顔になっているとわかった。
そんな事を意に介さずに兵士はこちらを見つけると、無遠慮に指を突きつけ、
「おやおや、軍属でない女子供が此処にいるにもかかわらず追い払うなりするといった対処もしないとは……程度が知れますな」
そんな事を言ってのけた。この人のMAPにおける表記はこの段階をもって赤へと切り替わる。まさか同じ国の兵士でも敵性反応とみなされることがあるとは新たな発見であった。今はそれ以上に腹立たしいが。
もはや、ツムジさんすら止めようとせずに殺気を向けている。気がついてか知らずか、その兵士はまだまだ好き勝手を言い続けていたが。
「先に行き情報を集めて来いといったのに、まさか現場と喧嘩をしているとはな……物見とは私の知らぬうちにずいぶんと偉くなったものだ」
その時だ。少し豪華な鎧を身に纏った女の人が新たに門の外からやってきてそう呟く。ラドンさんはすぐさま上官であるとみて礼をしたのに、言いたい放題だった兵士は反応が遅れる。
ーーキンッ
金属同士がぶつかるような音が不意に聞こえたと思ったら、突如として兵士が倒れ伏した。この人が先ほどまで無手だったにも関わらず、今は剣を鞘に納めている途中であることを見ると、どうやらこの人が皆の目に留まらぬ早業で剣を抜き叩きのめしたようであった。
「恥を知らぬ者を遣わせてしまうとは……部下の失言は私の失言だ。申し訳なかった」
そういってこちらを向き、深く頭を下げる。その対応に慌てたのはラドンさんだ。頭をあげてくださいと頼み込んでいる。しばらくはその姿勢のままであったがようやく頭をあげてくれた。その時に一瞬だけ母さんに目がいったように見えたが気のせいだろうか?
「しかし、一体何があったか教えてくれないか?私は此処が攻められていると聞いて急いでやってきたのだが、戦闘の傷跡こそあるもののすでに日常に戻っているようでな……」
ちょっと困ったように眉を少し下げながら上官さんはそう言ってきたので、僕達は事の顛末をラドンさんを中心としながら説明をしたのであった。
◇
「なるほど……つまりは私達は見事に遅れてしまったと言うことか。1番大変であった時に間に合わなくてすまなかった」
説明の後、上官さん……リリーさんは開口一番謝りを入れてきた。
「……町が落ちてしまってもまた取り戻せば良いという判断なのは軍の方針なのですか?」
ツムジさんが尋ねると、リリーさんは断じて違うと言い切る。その言葉に皆少し安心をする。後日ラドンさんに聞いたところ、国の主力がそんな判断力であるならばこの国は見限ってしまったほうがいいレベルの問題発言であったそうだ。
リリーさんは僕達を含めた参加してくれた町の人にお礼をすることと町の修繕に力を尽くすと約束をしてくれ、さらにはすでにおちた他の町を、なんとか取り戻せないか考えてくれるといった。ツムジさんが心配していた銃についてはお咎めはないとのことだった。今後のことが色々まとまったあと、リリーさんはアンジュ母さんの顔をじっと見る。母さんは思い当たる節がないのか首をかしげた。
「あの、私が何か?」
「いや……間違っていたら申し訳ない。だが、エンジュという名前に心当たりはないですか?」
その言葉に母さんは目を見開いたのだった。