うたげ
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次の日の朝、ラタン姉やアンジュ母さんに連れられて門の前まで行くことになった。クロムやスズちゃんも一緒に行こうと身支度を整えていたが、その最中にイブキさん達が乱入。2人を抱えてどこかにいってしまった。……うん、この間は元気が無くなっていたけど2人とも元に戻ったようで何よりだ。そう言うことにしておこう。
身内2人と部屋を出るとヒカタさんがいた。2人の悪ノリが発動しているのに、この間のようなことをヒカタさんがしていないのに違和感を感じたが、まあそんなこともあるのだろう。
合流した女性陣はなんだかすごく機嫌がいいようだ。時折こちらを見ているが、僕に何か関係しているのだろうか?そういえば、今日はツムジさんを見ていない。一体どこにいるのかMAPで探してみる。
いた。どうやらイブキさん達やクロム達とともにすでに門の前に行っていたようだった。そこで何故先に行っているのか、別々に行く必要があったのかといった新たな疑問が浮かぶ。だがその疑問が晴れることはなく、移動する時間になったのだった。
ツムジさんの家を出る。門から離れたこの辺りの町並みは大きな被害もなく、まるで昨日までの戦闘がなかったかのような印象を受ける。だが、門に近くなるにつれ、崩れた壁や銃撃の傷跡が目立つようになっていく。忘れてはならない、決して忘れてはいけないのだ。スフェンの町の中で、確かに戦は行われていたのだ。
突然頭を撫でられる。振り返ると手の主はラタン姉だった。穏やかな笑みを浮かべている。
「よくみるのですキルヴィ。これがボク達が守ることができた町並みなのです。キルヴィだけのおかげ、ってわけではありませんが確かにあなたは関係してるのですよ?」
ラタン姉の言葉に賛同するかのように、母さんやヒカタさんも僕の頭を撫でだした。すごくこそばゆい気持ちになるが、悪い気はしなかった。
門が見えてくる。おそらくはここが1番、被害が大きいだろう。入るときに見た門の扉は跡形もなく、魔法で急設した土の壁すらも痛々しい傷跡を残している。流石に戦死した者は移動させたのであろう、この間まで積んであったあたりやこの近くには見当たらなかった。
キョロキョロとしてるとツムジさんを見つける。心なしかいつもよりもきっちりとした格好に見えた。こちらに気がついたのか、大きく手を振ってくれる。そして、その近くには真っ白に燃え尽きたスズちゃんと、それを慰めているクロムの姿が見えた。
左右から衝撃。
「さっきは連れてこれなくてごめんねキルヴィ君!寂しかったよね!?」
「本当は連れて行きたかったよキルヴィ君!クロム君やスズちゃんだけでは物足りないよ」
「「だから今堪能させてもらうね!」」
うん、白くなってるスズちゃんが放って置かれている時点でこうなるのはわかってた。わかってたけれど相変わらず捕捉までが素早くMAPで捉えにくいイブキさんとナギさんの2人だった。遠くで頭を抱えるツムジさんがいる。あなたの娘さんですよ、落ち込むのではなくて助けて下さい。
そのまま2人に挟まれされるがままにされているとゾクリ、と昨日まで当たり前に感じていたものに近い何かが後ろから溢れてくる。そしてビクリと跳ねあがる2人。ダラダラとつたってくる程の汗をかきながら、僕の脇を両方から抱えたままゆっくりと振り返る。
後ろの正面には鬼がいた。いや、正面には落ち着いた笑顔のヒカタさんと、僕と同じものを感じ取ったのかヒカタさんから少し引いた様子の母さんとラタン姉がいたのだった。ヒカタさんが静かに手を首の高さまで持っていく。手を握り親指だけをだした状態にすると、声には出さないながらも口を動かしながら強調するかのようにゆっっっくりと自分の前を横切らせた。
オ・ボ・エ・テ・オ・キ・ナ・サ・イ?
口の動きからはそう言ったように感じた。僕に言ったわけではないだろうに、戦争でも感じたことのない冷たさが背中に走るのを覚えた。2人はゆっくりと僕を下ろし、ヒカタさんの視線からツムジさんを盾にして隠れるように縮こまっていく。
なんというか、これが僕を取り巻く日常だったんだと思い出す。誰かがバカをやって、それを誰かがたしなめる。そんな、当たり前の日々をこの数日間で忘れてしまっていた。
「もしかして……あ、やっぱりそうだ!この子だよみんな!」
なんとなしに感慨にふけっていると、町の人が僕をみて声をあげた。周りにいた人々はその声に群がってくる。
「こんな小さな子が戦争に?」
「とても信じられないよ」
「でも、見たんだ!この子が戦ってるのを」「相手の将軍を打ち負かしたんだぞ」
「英雄だ、我らの小さな英雄だ!」
口々に思い思いのことを言っていたかと思うと僕に対して英雄だというコールが始まった。あっという間に広がり、門の前にいた人が一丸となって英雄コールをする。僕の一挙一動に歓声が起こる。なんというか、どうすればいいのかわからなくて先ほどまでとは違うベクトルで困ってしまった。
「静粛に!ほら町の英雄殿が困っているぞ。みな、落ち着こうではないか!」
そう声をあげたのはすっかり顔見知りになったラドン兵長だった。その声に場は静まる。しかし、今さりげなくこの人も僕のことを英雄と呼んだ気がするが気のせいだろうか?そんなことは御構い無しにラドンさんは僕の前まで来ると僕の手を握り、膝をつく。
「戦いに参加したものを代表してお礼をさせていただきますぞ、キルヴィ君……いや、キルヴィ殿。あなたのおかげでこの町は救われたのだから」
その言葉に、場は再び盛り上がる。なんだろう、この胸が熱くなって来る感じは。
いや、僕は知っている。そうか。
僕はここにいる多くの人に認めてもらったことが嬉しくてたまらないのか。
誰からも認めてもらえなかった僕が、今ではこんなに多くの人に認めてもらえているのか。
そう思うと、両頬を涙が伝う。
「どうした!?」
「あの子、泣いてるぞ」
「あれだ、怖かったんだよ」
「ラドンさん和ませて!」
「わ、私がか!?」
ざわざわと心配してくれる声が聞こえてくる。大丈夫ということを知らせるために大きく手を挙げた。そして、多くの人に注目される。
「あ、りがとう。僕は大丈夫、です!」
そしてまたワッと歓声が上がる。
「皆、失ったものも確かに多かった……だが悔やむばかりではダメだ。この町は、スフェンは守られた!犠牲となったものを安心させるためにも、今はこの町に小さな英雄が生まれたことを祝おうではないか!」
ラドンさんが声をあげた。賛同の声が響き、町を包んでいく。そこから一日中、町をあげての宴となったのだった。