敗走と戻って来た平穏
昨日だけで1200アクセス…!皆様本当にありがとうございます!頑張ります。あ、あと本日プロローグを書かせていただきました
目が痛い。戦いの途中で我を忘れてしまったが途中、自分が担がれて馬に乗せられたのはわかった。そして今も走っているようだった。危ないと見て回収をしてくれたようだった。こんなことをしてくれるのは我が軍には1人しか心当たりはない。
「副官か?……すまない、助けられた。感謝するぞ。……副官?おい返事をしてくれ、すまんがまだ目が見えなくてな」
「しょ、将軍。その……」
副官に対してお礼の言葉を述べたのに、帰ってきたのは副官の声ではなかった。途端に不安がこみ上げてくる。あの時、近くにきた中に確かに副官はいたはずだ。それに、一度引くにしてもずっと走り通しの馬も気になる。目がやられていることにもどかしさを感じる。声が、震えた。
「……すまないが、突撃前の点呼から現状までを誰か報告してくれ」
「はっ、かしこまりました」
先ほどと同じ声が帰ってくる。
「マドール将軍が1人、町に向かわれた後我々に残っていた兵数は1627名であることを確認したのち、将軍に続くよう副官殿に命じられ町へ突撃いたしました。将軍の元へすぐに駆けつけたかったのですが、消耗していたことと相手が死兵だったのもあり戦力が拮抗、時間がかかりました」
あの時点で1627名か。はじめは3000だったというのに半分近くまで減らされてしまっていたとは。続きを促す。
「それでもと副官殿は私を含めた5名の兵士を連れて将軍の元に着きました。着いた時は驚きましたよ、将軍が少女にトドメを刺されそうになっていたのですから。副官殿は迷わず発砲をしました」
そうだ、つまりは俺はーー
「俺は、負けたのだな。それで、副官が撤退命令をだしたと。……それで、肝心な副官は」
「将軍を逃がすため、相手の追撃を一身に受けておいででした。恐らくは……」
「そう、か」
「……そこから敗走を始めました。先ほど軽く点呼を行いましたが500ほどしか我が軍の兵力は残っていません。そして多かれ少なかれ、皆怪我をしており、続投は不可能かと」
息がつまる。俺1人の危機で軍が壊滅状態だ。手を強く握りしめ、血が滲むがそれでも足りないくらい、後悔が押し寄せた。
はじめから、相手に手心などつけずに攻めていれば、副官は、皆は死なずに済んだだろう。後半の戦、見方を殺したのは、俺が手にかけたも同然であった。
「……本国まで戻ろう。責任は、全て俺にある」
この失敗で俺の立場がどうなるかは分からなかったが、皆が繋いでくれた命だ。一度帰らなければ示しがつかない。いくつかの町を占領したので兵士達だけでも恩赦が降れば良いのだが。
「今は、帰ろう。だがキルヴィ……そして精霊よ、覚えていろよ必ず仇を取りにきてやる」
今は遠いであろうあの街にいた2人に対して、マドール将軍は言葉を発したのであった。
◇
気がつくと僕は柔らかなベッドの上で寝かされていた。隣にはラタン姉やクロムとスズちゃんが小さく寝息をたてていた。部屋の内装に見覚えある。ここは、ツムジさんの家だ。気を失う前のことをよく覚えていないが、先ほどまで戦争をしていたはずだ、慌ててMAPに意識を向けるが有効範囲に赤い点は見当たらなかった。その時、僕の身じろぎに目が覚めたのかラタン姉が目を開いた。
「……起きたのですかキルヴィ。お疲れ様なのです。戦争は、少なくともこの町の戦いは終わったのですよ」
終わった。にも関わらずこうして安息しているということはーー
「はい、ボク達は勝ちました。勝ってこの町を守れたのです」
思い出してくる。将軍こそ討ちもらしたが、相手を壊滅させ、敗走させたのだ。そして、皆で喜びを分かち合ってた時にーー
「ラタン姉!おか、アンジュさんは!?」
僕の声でクロムとスズちゃんが目を覚ますが、それどころではない。アンジュさんは僕をかばい、残っていた敵兵に撃たれ、倒れたのだ。慌てた様子の僕に対し、それでも周りの対応はのどかに感じられるものだった。
「心配しなくても、大丈夫なのですよ。アンジュなら……ほら、今の声で来たみたいですね」
ノックが3回、ドアが開かれる。そこにいたのは紛れもなくアンジュさんだった。その顔を見て、向こうもこちらの顔を見て、お互いにホッとした顔になる。
「よかった……アンジュさんが撃たれて僕、何も考えられなくなって、そこから記憶がないんです」
「私はこの通り、無事だよ。そしてそこからは無理に思い出す必要はないさ……あ、でも思い出して欲しいことはあるねぇ」
少し、意地の悪い顔になりつつアンジュさんはそういった。なんのことかと周りの顔を見ると、皆ニヤニヤしていた。困惑していると、ラタン姉が助け舟を出してくれた。
「キルヴィ、アンジュの事をなんて思っているのかちゃんと言ってあげるのです」
……もしや
僕はとっさにアンジュさんのことを
お母さんと呼んだのだろうか。
「か、母さん」
口に出す。顔が熱くなってくる。キルヴィもそんな顔をするんだ、真っ赤になって可愛いのですと珍しいものを見たように周りがはしゃぎ出す。なんだろう、すごく恥ずかしい。
「ようやく、そう呼んでくれた。キルヴィ、ありがとうね」
でも、そんな恥ずかしいと思う気持ちもアンジュさん……いや、母さんのとても嬉しそうな顔を見ると、もっと早くよんであげればよかったと感じた。そのまま母さんに抱きつく。母さんは少し驚いたようだったが、優しく抱きしめてくれた。
僕はここでようやく、平穏が戻ってきたことを実感できたのであった。