イベリ王国戦 10 決着
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武器を交わして10合。こちらはラタン姉と2人がかりだというのにマドール将軍は最初の投石による怪我のみで息も切らせていない。対してこちらは消耗が激しく、大きな怪我こそしてないものの2人で支えあって立っているような状態だ。そんな様子を見てマドール将軍はニヤつく。
「やれやれ、強情な。降るといってくれれば色々と楽なんだがなぁ?」
「うる、さいのです!ボクは、ここに、守りたい人がいるのです!」
「数人ぐらいなら連れてっていい、殺しゃしねえっていってるだろうが……欲張りな精霊さんだことで」
「全部、守りたいのです!あなたも部下をやられて怒る心があるのなら!守りたいものがあるという心がわからないのですか!?」
「……思いは平行線のようだ。だが、みよ!部下も町に来た!もうこの町に勝ち目などあろうか?その手で掴める範囲のものだけを守れれば、それでよしとできないのか?」
「それでも!……だからこそ、足掻くのです!」
マドール将軍に飛びかかるラタン姉。軽く槍で受け止められる。だが、攻撃はそれで終わってはいない。突如として盾の一部が開き、強烈な光がマドール将軍の目に浴びせられた。たまらず将軍は武器を離し両目を抑える。
「ぐっ!?そいつは仕込み盾だったのか、クソ、目が見えねえ!」
ついには落馬し、そのままうずくまってしまった将軍に、ラタン姉は盾についた切っ先をその首に突きつける。僕は馬を棍棒で打ち、逃げられないようにした上でさらには落とした槍を素早く回収することで、万が一にも反撃のできないようにした。
「……トドメなのです。あなたを倒せばこの戦いは勝ちなのですから」
「やらせるものか!」
僕達の横から勢いよく突撃してくる影。そして破裂音。とっさにマドール将軍を蹴り飛ばしてその反動で横にズレたラタン姉の頬を何かがかすめていく。何事かと見るとマドール将軍の前に全身金属鎧姿の敵兵がいた。そして数人のイベリ王国兵士が続く。こちらを確認すると舌打ちをする。
「ちぃ、外しましたか……将軍、私の馬を!一度引いてください!お前ら!将軍を連れて撤退に移れ!」
そのまま馬にのせようと数人がかりで動き出す。取るか取られるかのやり合いだ、黙って見ている道理はない。手を引かれながらもフラついている将軍めがけて投石をする。
「小僧!……そうか、貴様が将軍の言っていた奴だな。私が相手をしようではないか!」
鎧姿の兵士に投げた後の射線を防がれ、弾かれる。とはいえ無傷とはいかないようで、当たったところはベコベコになっている。そうしているうちにマドール将軍は馬に乗せられて行ってしまった。それを見届けると、手にしていた銃を投げ捨て、腰から新たな銃を引き抜いてナイフをセットし槍に変える兵士。MAPでみると射程距離を超え、壁を降り、ついには門の外まで出て行ってしまったようだ。おそらく追いつけないだろう。
「覚悟!」
兵士はそういって襲いかかって来た。が、先ほどのマドール将軍と比べて格段に遅い。難なく避けると棍棒で腹へと強く打ち込む。衝撃が背中にまで抜け、すぐに沈んだ。
「……逃してしまいましたか。でも、敵の将軍を撃退することができたのです!この戦いはボク達の勝ちなのです!」
ラタン姉が町に響くような大きな声を上げる。その声を聞くと先ほど横を勢いよく通っていった馬を見たのだろう、戦いの手をやめ相手の兵士は敗走を始めだした。町の兵士は勢いづき、深追いでない、無理にならない程度のところまで追撃を行う。最終的に相手の数は500にも満たなくなっていた。そのまま西へ、西へと進んでいることからこの町にしばらく攻め込んでくることはないだろう。
そう、僕達は勝ったんだ!
そう実感した時、街は歓声に包まれた。
危険だからと隠れていたクロムやスズちゃんを伴ってヒカタさんやイブキさん、ナギさんが寄ってくる。ツムジさんやラドンさんも、そしてあの兵士さんと本屋のお姉さんも、知っている人はみんなみんな集まりだす。この勝利を分かち合おうと、皆で喜んでいた。
だから僕は見落としていた。まだ身近に赤い点が消えずにあったことを。
「危ない!」
突如、近くにいたアンジュさんに突き飛ばされる。それに続くようにしてなる破裂音。飛び散る鮮血。倒れこむアンジュさんと広がる血だまり。
ナニガオキタ?ナンデアンジュサンガタオレテイルノダ?
その時、耳に聞こえてくる声。
「くっ、本命を仕損じましたか……無念です」
先ほど倒したはずの鎧姿の敵兵が倒れた姿で煙を上げる銃を構えていた。もはや手は尽くしたと、武器を投げ出す。
「か……おまえか!」
視界に映るのはもはやその敵ただ1人のみになった。
「お前が、よくも、母さんをぉ!」
そして僕の理性は飛んだ。
◇
勝利の雰囲気の中、自分をかばって女性が撃たれたことでキルヴィ君は鬼と化した。獣のような声をあげながら、手に持っていた棍棒で、既に戦意を失っている敵兵を滅多打ちにしだす。あっという間に鎧がダメになっていく。いや、それどころではない。撃たれた人の様子を見なければ。顔をそちらに向けると回復魔法を使えるもの総出でその女性の治療に当たっていた。
「痛い、痛いが……やっとお母さんと呼んでもらえたねぇ」
ちなみに撃たれた本人はというと、痛みに苦しみながらも意識はあるようだった。その涙は痛みのせいか、別の感情か。その女性の手を取りながら安心した様子で、先ほどまでキルヴィ君と共にいた少女が頷いていた。あの分なら大丈夫だろう。再びキルヴィ君の方を見る。
凄惨。その一言に尽きる。
手足はありえない方に曲がっていた。鎧は着脱不可能なレベルまで叩きつけられ、鎧の節から血が吹き出ている。こんな状態で生きているのはとても無理な話で、明らかに事切れているだろう。それでもまだキルヴィ君は攻撃を続けていた。
見ていて痛々しかった。ツムジさんや部下に声をかけ、少し気が引けたものの数人がかりでキルヴィ君を押さえ込む。少しの間暴れていたが、力尽きたのか動かなくなるキルヴィ君。心音を確認するとちゃんと動いている。どうやらたまりきった疲労から気絶したようだった。
……押さえつけた時にも思ったが、いったいどれだけの人をこの小さな体で救ってくれたのだろうか。どれだけの負荷をこの子にかけさせてしまったのだろうか。この子には感謝してもしきれないだろう。
こうして、少し後味が悪くなった感じになりつつも我々は町の防衛に成功したのであった。
事後処理などは次の話で